【歌詞対訳】”Caroline, No” / The Beach Boys

2024年2月7日

ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』(Pet Sounds, 1966)の最後に配置されている美しいバラード。ビーチ・ボーイズはいまや英語圏でもおじいちゃんが昔を懐かしみながらしみじみ聴く音楽になっているのだろうか。決していまどきの若者にアピールする曲ではない。でも現代の感覚からすると小品といってもいいこの小さな歌の美しさに僕はずっと心を惹かれてきた。もちろん「素敵じゃないか」("Wouldn’t It Be Nice")も「僕を信じて」("You Still Believe in Me")も「神のみぞ知る」(“God Only Knows")もすばらしいけれど、「キャロライン、ノー」("Caroline, No")の美しさと哀感にはかなわない。だからブライアン・ウィルソン本人がアルバムの中でこの曲が一番好きだと言っているのは心情としてよくわかるような気がする。"It’s so sad to watch a sweet thing die."まさにそのとおりだ。


“Caroline, No"

Where did your long hair go

Where is the girl I used to know

How could you lose that happy glow

Oh, Caroline no


「キャロライン・ノー」

きみの長い髪はどこにいったのか

かつて知っていた女の子はどこにいるのか

あの幸せに赤らんだ頬をどうしてなくしてしまったんだよ

ああ、キャロライン、なんてことだ


*How could you…? 直訳すると「どうして…ができるのか?」だが、「いや、できるはずがない」という反語であったり、「そんなことをするなんて」というふうに相手を責めたり非難したりするニュアンスも表す。


*happy glow  「幸せな輝き」と直訳している例をよく見かけるが、これだといまいち意味がよくわからない。glowは「輝き」のほかに「ほおの赤らみ、紅潮」の意味もある。ほおが赤いというのは年若く健康的であるということなので、こちらのほうが美貌を失ったキャロラインを嘆いている文脈に合うように思う。ちなみに、feel a glow of happinessと言うと「幸福を感じる」という気持ちの表現にもなるので、そのあたりの含みも持たせてあるのかもしれない。



Who took that look away

I remember how you used to say

You’d never change, but that’s not true

Oh, Caroline you


あの容貌をだれが取り去ったのか

かつてきみが言っていたのを覚えているよ

決して変わらないって でもそれは本当じゃなかった

ああ、キャロライン、きみは



Break my heart

I want to go and cry

It’s so sad to watch a sweet thing die

Oh, Caroline why


たまらない気持ちにさせる

どこかに行って泣きたいよ

きれいなものが消えていくのを見るのはとても哀しい

ああ、キャロライン、どうして


*a sweet thing  “sweet”は「甘い」という味覚から始まって、快いこと全般を形容する言葉である。こういう言葉は訳すのがほんとうに難しい。「美しい」「きれい」「いとおしい」などいろいろ考えたが、この曲の雰囲気には「きれい」というわれわれ日本人がふつうに口にする言葉の語感が合うのではないかと思う。


Could I ever find in you again

Things that made me love you so much then

Could we ever bring 'em back once they have gone

Oh, Caroline no


もう一度きみの中に見出せるだろうか

きみのことを心から愛するきっかけとなったものたちを 

それらが消えてしまっても僕たちは取り戻せるのだろうか

ああ、キャロライン、なんてことだ