【歌詞対訳】”Both Sides, Now” / Joni Mitchell

2024年2月7日

セカンド・アルバム『クラウズ』(青春の光と影)(Clouds, 1969)に収録。いうまでもなくジョニの初期の名曲であるとともにキャリアのすべてを通しての代表曲。大ヒット曲というのはミュージシャン本人からするとなかなか厄介なものでもある。日本の女性歌手でいえば太田裕美の「木綿のハンカチーフ」や久保田早紀の「異邦人」なんかが思い浮かぶが、幸いなことに代名詞的なヒット曲が生まれてしまうと、不幸なことにそれ以降何を歌ってもその曲のイメージに縛られてしまう。しかしながら、それはシンプルな演奏と歌のみで自らの経験や人生観、信条などを表現するフォークミュージシャンにはあまり当てはまらないような気がする。ことにボブ・ディランや、そしてこのジョニのように、いわば全作品が自らの血肉でできているような歌手の場合は。彼女はもっとちゃんと聴かないといけないなと個人的に思う数少ないミュージシャンの一人だ。

シアン・ヘダー監督の映画『コーダ あいのうた』(CODA, 2021)で物語のキーになる曲として取り上げられ、ろう者の家族を持つ少女ルビーを演じたエミリア・ジョーンズによるカバーも話題となった。

“Both Sides, Now" (Written by Joni Mitchell)

Rows and floes of angel hair

And ice cream castles in the air

And feather canyons everywhere

I’ve looked at clouds that way

「青春の光と影」

列をなす天使の髪の浮氷

空に浮かぶアイスクリームのお城

いたるところに羽根の大渓谷

私はそんなふうに雲を見ていた

*floes「浮氷」:rowsと韻を踏む。flowsではない。

But now they only block the sun

They rain and snow on everyone

So many things I would have done

But clouds got in my way

でも今 雲は太陽をさえぎるだけ

みんなの上に雨や雪を降らせる

やればできたはずの数多くの物事

でも雲がたちふさがったの

I’ve looked at clouds from both sides now

From up and down and still somehow

It’s cloud illusions I recall

I really don’t know clouds at all

私は雲を両側から見た

上から下から でもなぜかいまでも

思い出せるのは雲の幻影だけ

私は雲が何なのかをちっとも知らない

*From up and down: ジョニは飛行機の中でソール・ベローの『雨の王ヘンダーソン』を片手に、眼下に雲を見渡したときにこの曲のインスピレーションが湧いたという。

Moons and Junes and Ferris wheels

The dizzy dancing way you feel

As every fairy tale comes real

I’ve looked at love that way

月に六月、それに観覧車

めまいのする激しい踊りのさなかに感じる

あらゆるおとぎ話が現実になっていくようだと

私は愛をそんなふうに見た

*Moons and Junes and Ferris wheels:いずれも回転するもの、周期的に巡りくるもののイメージを持つ。

But now it’s just another show

And you leave ‘em laughing when you go

And if you care, don’t let them know

Don’t give yourself away

でも今や別のショーが始まった

去っていくときは笑わせておけばいい

注意すれば、悟られはしない

自分をうかつに見せてはいけない

I’ve looked at love from both sides now

From give and take and still somehow

It’s love’s illusions that I recall

I really don’t know love

Really don’t know love at all

私は愛を両側から見た

与える側から受け取る側から でもなぜかいまでも思い出せるのは愛の幻影だけ

私は愛を知らない

愛が何なのかをちっとも知らない

Tears and fears and feeling proud

To say, “I love you” right out loud

Dreams and schemes and circus crowds

I’ve looked at life that way

涙と恐れと誇らしい気持ち

「愛してるわ」と声を大にしていうこと

夢と企みとサーカスの群衆

私は人生をそんなふうに見た

Oh, but now old friends they’re acting strange

And they shake their heads and they say

That I’ve changed

Well something’s lost, but something’s gained

In living every day

でも今 昔からの友人たちは妙な振る舞いをしている かれらは首を振って口にする

あなたは変わってしまったと

得たものもあれば、失ったものもある

毎日を生きていくなかで

I’ve looked at life from both sides now

From win and lose and still somehow

It’s life’s illusions I recall

I really don’t know life at all

私は人生を両側から見た

勝利する側から敗北する側から 

でもなぜかいまでも思い出せるのは人生の幻影だけ

私は人生が何なのかをちっとも知らない

I’ve looked at life from both sides now

From up and down and still somehow

It’s life’s illusions I recall

I really don’t know life at all

私は人生を両側から見た

上から下から でもなぜかいまでも

思い出せるのは人生の幻影だけ

私は人生というものを少しも知らない

映画『コーダ あいのうた』より。作中でエミリア・ジョーンズが手話を交えつつこの曲を披露するが、何度みても感動してしまう。