【歌詞対訳】”Blues from Down Here” / TV On The Radio

2025年5月17日

セカンドアルバム『リターン・トゥ・クッキー・マウンテン』(Return to Cookie Mountain, 2006)に収録。ロバート・ジョンソンやボブ・ディランは「○○ブルーズ」というタイトルを好んでつけるが、その伝統を踏まえたキップ流のブルーズ(僕は意図的にブルースではなく「ブルーズ」と表記する)。ジャリール・バントンがたたき出すリズムはブルーズというよりはマーチのようだ。ほかのTVOTRの曲と同じように、暗喩に満ちた断片的イメージを連ねることで物語を紡いでいく。歌い手は井戸の底から助けを求めているのだが、それはさながら絶望の淵にある一個の人間のメタファーであるように思える。"Time for your favorite story…"の部分は井戸の上から聞こえてくる声の表現だと思うが、これはセレブレーションのカトリーナ・フォードが担当。「プロヴィンス」("Province")ではあのデヴィッド・ボウイがゲストボーカルで参加していることからわかるように、TVOTRは非常に玄人好みのバンドである。そんな彼らの、これまた玄人向けの曲といった趣だが、個人的にはお気に入りの一曲だ。

“Blues From Down Here” (written by Kyp Malone)

From the depths I called you, Ma

For your breath and breast so warm and fabled

Your hands reached inside

Grabbed my heart, enlarged, disabled

「ブルーズ・フロム・ダウン・ヒア」

どん底からあなたを呼んだ、お母さん

あなたのとても暖かく名高い息と胸を求めて

あなたの両手は内側にまで届いた

僕の心をひっつかんだ、それは大きくなり、不具になった

Hailed for your mercy

An ear that cares

あなたのあわれみを迎えいれた

注意を傾ける耳

How the blues sound from up there?

このブルーズは上のほうからはどう聞こえるのだろう?

With my wet hair, I wipe the blood off of your feet

Carry me through these shark infested waters

Well, you spared me from slaughter for sure,

But these sharks are equally in need of a martyr

この濡れた髪で、僕はあなたの足から血を拭い取ろう

この鮫がうようよいる海をうまく渡らせてくれ

確かにあなたは虐殺から僕を救ってくれた

でもこの鮫どもはみな等しく殉教者を必要としている

Oh, kindness shared

Undeserved purest gift, this life you’ve spared

おお、分け与えられた優しさ

あなたが救ってくれたこの命という、身に余るほど純粋な贈り物

How the blues sound from up there?

このブルーズは上のほうからはどう聞こえるのだろう?

Teeth gnashing, masticating this dumb tongue

Quiet now, quiet now, hear that supplication

Echo into the void

Been received by no one

歯をきしませ、このもの言えぬ舌を嚙み潰す

静かにしろ、静かにしろ、あの哀願を聞け

虚空へと消えていく残響

それは何人(なんぴと)にも届かなかった

Oh, my sweet dear

Cold alone poisoning ourselves

Engulfed in our own tears

おお、僕のいとしい人よ

こごえて、ひとりぼっちで、僕たち自身を害していく

僕たち自身の涙に飲み込まれていく

Signed, blues from down here

身ぶりで示された、この底よりのブルーズ

Pull the pin, drop it in, let it wash away your

ピンを抜け、投げ入れろ、洗い流そう

Time for your favorite story

Of how to achieve golden glory

Wash yourself squeaky clean

All in white, all hallow’s eve

あなたの大好きな物語を聞く時間だ

黄金に満ちた栄光をいかにして得るかという物語を

みずからを一点の汚れもなく洗い清めよ

すべては真っ白、すべての聖人の夕べ

Lessen your desire,

Hold your breath so patiently

Never inquire how to be free

Just stay on your knees

欲を減じよ

辛抱強く息を殺せ

自由になる方法を問うてはならない

ただ膝を折っているがいい

You might doubt it

Think there’s nothing left for me

To do but stomp my feet and shout about it

あなたは疑うかもしれない

僕には地団太を踏み叫ぶこと以外

何も残されていないように思うのだ

From the depths I called you

どん底からあなたを呼んだ

Now I’m waiting for an answer patiently

Stuck here at the bottom of this well

It’s not the last you’ve heard from me

いま僕は我慢づよく答えを待ちつづけている

この井戸の底に閉じ込められたまま

僕の声を聞くのはこれが最後ではないはず