【歌詞対訳】”My Back Pages” / Bob Dylan
4作目のアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』(Another Side of Bob Dylan, 1964)に収録。前回の"Chelsea Hotel #2″につづき、全共闘世代にゆかりのある曲その2。いうまでもなくこれは、川本三郎の回想録『マイ・バック・ページ―ある60年代の物語』(1988)のタイトルのもとになっている曲である(注)。2011年の映画版では、妻夫木聡が川本自身をモデルとするジャーナリスト・沢田を、松山ケンイチが新左翼の活動家・竹本信弘をモデルとする梅山を演じており、このふたりがCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)の「雨を見たかい」("Have You Ever Seen the Rain?")をとおして互いに親近感をおぼえるシーンが僕は好きだ。たとえそれが反戦歌であったとしても、こんなふうに音楽によって世代意識を共有できるのはいいなと思ってしまう。92年生まれの僕からすると、学生運動というのはどうにも遠い昔のことのようにしか感じられないが、そんなに無知ではいかんだろうと思って、ちょっと勉強してみようかと考えている今日このごろである。
“Ah, but I was so much older then / I’m younger than that now"というコーラス部分が有名だが(それに比してヴァース部分はあまりにも迂遠であるというべきか)、このときのディランはまだ20代前半っていうのがにわかには信じられない。でもまあ、知識も経験も乏しい若者のほうが、自分は大人たちよりもいろんなことを知っているんだとうぬぼれていて、そのせいで妙に老成してみえることもあれば、知識や経験はあるけれども、気力も体力もおとろえた人間のほうが一周まわって若々しくみえることもあるというのは、いまの僕にはすんなりと呑み込めるような気がする。なお、映画では真心ブラザーズと奥田民生が英語詞のままカバーしたものが主題歌として使われているが、真心ブラザーズ単体による歌のエッセンスを抽出したかのような日本語カバーもなかなかおもしろい。
(注)今年5月に新潮社から、もう何冊目になるのかすらわからない永井荷風の新刊を出したばかりの川本だが、この『マイ・バック・ページ―ある60年代の物語』も平凡社からひっそりと復刊された。しかし1650円もする……。平凡社ライブラリーが高いのはわかってるけど、もうちょいどうにかならないかなあ。
“My Back Pages” (written by Bob Dylan)Crimson flames tied through my ears
Rollin’ high and mighty traps
Pounced with fire on flaming roads
Using ideas as my maps
“We’ll meet on edges, soon,” said I
Proud ’neath heated brow
「マイ・バック・ページズ」
俺の耳をとおってひとつに結びついた紅い焔が
高くとどろき、強大な罠が*1
燃えあがる道の炎とともに跳びかかってきた
いろいろな考えを自分の地図にして
「俺たちはぎりぎりのところで会うだろう、遠からず」と俺はいった
火照った額のしたは誇りに満ちていた*2
*1 roll:「転がる」ではなく「(雷・太鼓などが)ごろごろ鳴る、とどろく」
*2 heated brow:このbrowは「眉」ではなく「額」、あるいは文語的な言い方で「表情」(expressions)を意味する。額は文字どおり知性の座であることから、歌い手は若いころ知的に熱狂していたとみるのがひとつの解釈であろう。
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
Half-wracked prejudice leaped forth“Rip down all hate,” I screamed
Lies that life is black and white
Spoke from my skull. I dreamed
Romantic facts of musketeers
Foundationed deep, somehow
なかば崩された偏見が前へ躍り出た
「あらゆる憎しみを引き裂け」と俺は叫んだ
人生は白と黒であるという嘘が
俺の頭をとびだし口をきいた 俺は夢をみた
幾列にも隊をなしたマスケット銃兵たちの
空想的な事実を、どういうわけか
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
Girls’ faces formed the forward pathFrom phony jealousy
To memorizing politics
Of ancient history
Flung down by corpse evangelists
Unthought of, though, somehow
女の子たちの顔が前方の道をつくった
にせものの嫉妬から始まり
古代史の
政治の暗記にいたるまでの道を
福音伝道者たちが
考えることをやめなかった死体に投げ倒されて、どういうわけか
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
A self-ordained professor’s tongueToo serious to fool
Spouted out that liberty
Is just equality in school
“Equality,” I spoke the word
As if a wedding vow
教授を自称する男の舌は
馬鹿をいうにはあまりに真面目にすぎ
とうとうと弁じた 自由というものは
あくまで学校のなかでの平等にすぎないと
「平等、」と俺はその言葉を
あたかも結婚の誓いのように声に出した
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
In a soldier’s stance, I aimed my handAt the mongrel dogs who teach
Fearing not that I’d become my enemy
In the instant that I preach
My existence led by confusion boats
Mutiny from stern to bow
一人の兵士の態度で、俺は雑種の犬たち
めがけて手をのばした そいつらは教えを垂れるんだ
俺が俺自身の敵になることをおそれてはならんと
俺が説教をする瞬間
俺の存在は艫から舳先まで反乱で
混乱しきった船にみちびかれる
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
Yes, my guard stood hard when abstract threatsToo noble to neglect
Deceived me into thinking
I had something to protect
Good and bad, I define these terms
Quite clear, no doubt, somehow
そうさ、俺の護衛はしっかりと立っていた
無視するにはあまりに高貴にすぎる抽象的なおどしが
俺をあざむいて
自分には守るべきものがあるのだと思わせたときに
善と悪、俺はこれらの言葉を
疑いの余地もなく、明晰に定義するんだ、どういうわけか
Ah, but I was so much older thenI’m younger than that now
ああ、でもあの頃の俺はずっと年老いていた
それより今のほうが若いんだ
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