【歌詞対訳】”Tel que tu es” / Charlotte Gainsbourg

2025年11月4日

セカンドアルバム『ファイヴ・フィフティファイヴ』(5:55, 2006)に収録。『魅少女シャルロット』(1986)という恥ずかしい邦題のついたデビュー作(フランス以外ではそもそもリリース不可能であろう父親との禁断のデュエット、"Lemon Incest"が収録されている)を本人がどう評価しているかは知らないが、シャルロットの本格的なミュージシャンとしてのキャリアは実質的にこのセカンドからはじまったといっていい。プロデュースはあのナイジェル・ゴッドリッチ。作詞・作曲もろもろを含め、お膳立てがすごすぎるのもあって、フランス本国では当然のごとくチャート1位を獲得。

本業は女優でありながらちょっと音楽にも手を出してみましたという例は、ここ日本でもいくらでもあるわけだが、シャルロットは単なるフレンチポップやアイドル風味のポップスではなく、オルタナティヴないしインディーポップ路線である(そもそもナイジェルに普通のポップスをやれっていうのも無理な話だよね)。『アンチクライスト』(2009)とか『午前4時にパリの夜は明ける』(2022)とか、シャルロットが出ている映画は僕も何本か観たことがあるし、べつに過激でアヴァンギャルドな作品でなくとも彼女はある種存在じたいに独特の儚げなオーラがあって、どれも印象に残っている。やはり父親がセルジュ・ゲンスブール、母親がジェーン・バーキンという芸能のスーパーサラブレッドは、まず生まれた星のもとがちがうというべきか。

フランス語は当然ネイティヴなわけだが、シャルロットがアルバムの中でフランス語で歌っているのはじつはこの曲のみである。それも最後のヴァースは英語だ。"Tel que tu es / Come as you are"(あなたらしく、あなたのままで)。彼女の歌は正直いって下手なんだけど、ぽつりぽつりとつぶやくように歌う、そのいかにもあぶなっかしい感じが夢想的な作品の世界観とよくマッチしているのでむしろプラスの要素だ。僕のフランス語はもはやなまくら刀になってしまっているが、部分的におなじことを英語でも歌っているし……という気安さもあるし、なにより美しい曲なので、ここに勉強を兼ねて訳出してみる。

“Tel que tu es” (written by Nicolas Godin and Jean-Benoît Dunckel)

Quand tu t′en vas

Que tu n’es pas pressé

Ton corps se balance

Sans importance

Tel que tu es

「テル・ク・チュ・エ」

あなたが去っていくとき*1

あなたが急いでいないとき*2

あなたの身体はゆれ動く*3

これといった意味もなく

あなたのままで*4

*1 s’en aller「立ち去る、消え去る」

*2 このqueは意味的にquandに相当する。

*3 se balancer「揺れる、揺れ動く」

*4 tel que+直説法「…のままの、…のとおりに」

Sans dire un mot

Sans effort, tu te moques

Du décor tu es

De temps en temps

Tel que tu es

ひとことも口にせず

造作もなく、あなたは

飾りをあざわらってみせる あなたは存在する*

ときどき

あなたのままで

*se moquer de…「…をばかにする、嘲笑する」

Tu ne sais pas

Ce que l′on dit de toi

Tu t’en fous surtout

N’y change rien

Tel que tu es

あなたは知らない

人があなたのことをなんといっているかを*1

あなたはとりわけそんなことは問題にしない*2

なにも変えないで

あなたのままで

*1 onは文語ではqueなどのうしろでl’onになることがある。

*2 se foutre de…「…を無視する、問題にしない」

No one can tell

What you say or do next

Are you blessed by me

Maybe sometimes

Come as you are

次にあなたがなにをいい、なにをするのか

だれにもわからない

あなたは私に祝福されているの

たぶん、ときどきは

あなたのままで