【歌詞対訳】”Le long de l’eau” / Cécile Corbel

4枚目のアルバム『ソングブックVol.4–ローゼズ』(Songbook Vol.4 – Roses, 2013)に収録。セシル・コルベルは基本的にはトラッドや日本でいうところの民謡を自分なりにアレンジして歌っている人だけれど、オリジナル曲もそれに負けず劣らずすばらしい。なかでもこの"Le long de l’eau"は個人的にいちばんのお気に入りで、日頃から「フランス語は美しい」という言説に疑問をいだいている僕の考えをしばし雲散霧消させてしまうほどだ。

たしかに僕はフランス語にある種の抵抗を感じている。しかしここのところ、ドイツ語を復習したりロシア語をやったりするなかで、それがだんだん薄れていくのを感じる。たとえば学生のころの僕はとにかく動詞の活用をおぼえるのに苦労していたのだが、ドイツ語やロシア語をやっているとその大変さが相対化されていき、じつはそれほど大変でもないのでは?という心持ちになってくる。この相対化戦略は語学においても役にたつのだ。

なんだかんだいってフランス語の発想は英語と似通っている部分が大きく、そこを理解のとっかかりにしていくことができる。ドイツ語もまたそうだが、構造的なところに関してはむしろ日本語の発想でとらえていったほうがわかりやすい(ロシア語については言語そのものについてあれこれ言えるほど理解が及んでいない。まだまだこれからだ)。僕の場合、英語に加えてドイツ語、ロシア語までやってようやく、バイアスを抜きにしてフランス語と向き合えるようになったということだ。なんとも長い道のりだ。

僕は「フランス語が美しい」と思うのをやめた。そうではなく、この場においてはセシル・コルベルのフランス語の歌が美しいのである。僕は彼女の音楽は掛け値なしに美しいと思う。「美しい」ということばは普通の文脈ではポジティヴなものだが、本当はそう思っていないのにその形容詞を使ってしまうと、それはもはや欺瞞をとびこえて偏見になってしまう。中・高時代の僕は英語が「かっこいい」ものだと思っていたが、いまではなんとも思わない。よく知りもしないでカタカナ英語をふりかざすような人をみると、日本語でものをいえない馬鹿じゃなかろうかとすら感じる。ある意味、語学において人は、なにも感じないという段階に至ってはじめて、初級を脱して中級になれるのかもしれない。

“Le long de l’eau” (written by Cécile Corbel and Simon Caby)

Mélo mélodie

Quelques notes sur une page

Le long de l′eau

Laissés derrière moi

Des sentiments qui dérivent

Et qui volent sous le vent

Le long de l’eau

Des oiseaux sauvages

「ル・ロン・デゥ・ロー(水の流れに沿って)」*1

メロ・メロディ

ページのうえの何枚かの紙切れは

水の流れに沿って

私のうしろに残されている

なりゆきにまかせ*2

風のしたを飛んでいく感情

水の流れに沿って

野鳥たちが

*1  le long de…「…に沿ってずっと」を表す成句。

*2  dériver「成り行きに任せる、流されていく」

On ira si tu es sage

Là où naissent les nuages

Je t′emmène faire un tour

Où le monde est beau

On ira perdre nos traces

Là où nos ombres s’effacent

Là où toutes les rivières

Se changent en océan

行きましょう、あなたが賢明であれば

そこでは雲が生まれている

あなたを連れていきましょう、一周するの

世界が美しい場所を

私たちの足跡は消してしまいましょう

そこでは私たちの影は消えてしまう*1

そこではすべての川は

大海へと変わる*2

*1  s’effacer「消える、消え去る」

*2  英語にseaとoceanの区別があるように、フランス語でも単に「海」といいたいときはmer、「大洋、大海」といいたいときはocéanと区別する。

*2  se changer en qc「…に変わる」

Mélo mélodie

J’ai perdu ma chanson

Le long de l′eau

Qui pourra me la rendre

Mes accords qui dérivent

Sur un air de violon

Le long de l′eau

Voguent vers le large

メロ・メロディ

私は私の歌をなくしてしまった

水の流れに沿って

だれが私にそれを取りもどせるだろう

ヴァイオリンのしらべにのって

それていく私の和音は

水の流れに沿って

沖にむかってただよう*

*voguer「ただよう、さまよう」

 le large ここでは「沖、沖合」を意味する普通名詞

Chaque jour

Elle navigue entre les mots

Les mauvais présages

Elle voyage pour de faux

Où le monde est beau

Moi j’ai le coeur en partance

Et la lune mène la danse

Là où vont les rivières

Remplir l′océan

毎日

私の歌はことばのあいだを航海する

あしき前ぶれ

私の歌はたわむれに旅をする*1

世界が美しい場所を

私の心はいままさに出発しようとしていて*2

月は踊りをリードする

川が大海を

満たそうとしている場所で*3

*1 pour de faux「冗談で、ふざけて」

*2 en partance (pour…)「(…に向けて)出発間際の」(partanceはpartirの名詞形。ふつうはこの成句で用いる)

*3 aller+不定詞「もうすぐ~する」(近接未来)

Mélo mélodie

Quelques notes sur une page

Le long de l’eau

Laissés derrière moi

Des sentiments qui dérivent

Et qui volent sous le vent

Le long de l′eau

Des oiseaux sauvages

メロ・メロディ

ページのうえの何枚かの紙切れは

水の流れに沿って

私のうしろに残されている

なりゆきにまかせ

風のしたを飛んでいく感情

水の流れに沿って

野鳥たちが

Elle comme un soleil

Elle parlait de nous, ma mélo mélodie

Elle c’était pour que tu m′aimes

Et elle pouvait même changer nos vies

私の歌は一個の太陽のよう

それは私たちのことを話していた、私のメロ・メロディ*1

あなたが私を愛するためにいてくれた*2

そして私たちの人生を変えることさえできた*3

*1 parlait: parler(話す)の2人称単数・直説法・半過去形

*2 pour que(…が~するために)はうしろに接続法をとる。したがってこのaimesはaimerの2人称単数・接続法・現在形

*3 pouvait: pouvoir(~できる)の3人称単数・直説法・半過去形

Elle comme un soleil

Elle parlait de nous, ma mélo mélodie

Elle c’était pour que tu m’aimes

Et elle pouvait même changer nos vies

私の歌は一個の太陽のよう

それは私たちのことを話していた、私のメロ・メロディ

あなたが私を愛するためにいてくれた

そして私たちの人生を変えることさえできた