【歌詞対訳】”Listen, Learn, Read On” / Deep Purple

2025年11月4日

セカンドアルバム『詩人タリエシンの世界』(The Book of Taliesyn, 1968)のオープニングトラック。イアン・ペイスのドラミングにしびれる。高校生になったころ、なぜかディープ・パープルにはまっていた。われながら1970年代のロック小僧かよ!?と自分ツッコミをいれたくなる。しかし、もっと異端だったのは、初期のディープ・パープルが好きだったということだ。もちろん、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」("Smoke on the Water")とか「ハイウェイ・スター」("Highway Star")が入っている『マシン・ヘッド』(Machine Head, 1972)は死ぬほど聴いた。なのにいまディープ・パープルで聴きたいと思うのはロッド・エヴァンズがボーカリストを務めていたころという不思議。

彼はバンドがその後向かっていったハードロック路線には明らかに適していないシンガーだし、ファンのあいだで知らぬ者はいない偽ディープ・パープル事件を起こしたせいで、バンドに在籍していたこと自体もなかったことにされているような気がするけど、それでも僕はリッチー・ブラックモアが主導権をにぎるまえの、ジョン・ロードがハモンドオルガン弾きぃのエヴァンズがシャウトしぃのやりまくってた頃のディープ・パープルが好きだ。さすが『不思議の国のアリス』を生んだ国というべきか、本来イギリスのアートロックっていうのはこのアルバムのジャケットみたいな雑然としておとぎ話めいた雰囲気が漂っているもんだよなとか思ったりする。ようするに、僕は根っからのハードロック好きというには根がソフトにできているということなのだろう。

“Listen, Learn, Read On”

 (written by Ritchie Blackmore, Jon Lord, Rod Evans and Ian Paice)

In ages past when spells were cast

In a time of men in steel

When a man was taught no special thing

It was all done by feel

「リッスン、ラーン、リード・オン」

はるか昔、呪文が唱えられていたころ

男たちは鋼鉄を身にまとい

なにも特別なことは教わらなかった時代*

すべては感覚によってなされるのだった

*このwhenは(接)「~するとき」ではなく前行のa time of men in steelにかかる関係副詞。a time when SV「…が~する時代」

So listen, so learn, so read on

You gotta turn the page, read the Book of Taliesyn

聴け、学べ、読み進めるのだ

ページをめくり、タリエシンの書を読まなくてはならない*

*タリエシン(Taliesinとつづることが多い)は6世紀ごろウェールズに存在したとされる吟遊詩人。『タリエシンの書』(Book of Taliesin)は実在する書物で、中期ウェールズ語のもっとも有名な文献のひとつ。

Hear the song of lovely Joan

Her sound so sweet and clear

In the courtroom of the King

Among children and the peers

愛らしいジョーンの歌を聞くがいい*

彼女のいとうつくしうて明朗な歌声は

王の法廷にて

子どもたちと貴族たちとに囲まれ響きわたる

*“Lovely Joan”はイギリスの伝統的なフォークソング/バラッドのタイトルでもある。

So listen, so learn, so read on

You gotta turn the page, read the Book of Taliesyn

聴け、学べ、読み進めるのだ

ページをめくり、タリエシンの書を読まなくてはならない

     “Now hear ye the words of Taliesyn,

      on the foaming beach of the ocean,

      in the day of trouble,

      I shall be of more service to thee

      than three hundred salmon…"

「さあ、タリエシンの言葉をきけ

 大海原わだつみの泡だつ浜辺にて

 苦難の日には*1

 我は三百の鮭よりも

 汝の力になろうぞ……」*2

*1 “in the day of trouble”は旧約聖書の「詩篇」第50章15節などにみられる言い回し。

*2  現代英語のyou-your-you(主格–所有格–目的格)は古くはthou-thy-thee(発音はそれぞれ「ザウ」「ザイ」「ズィー」)という形をとっていた。なお本来はthou(2人称単数)の複数形に相当するのがyou(主格)、ye(目的格)だが、現代英語ではyouの系統のみが生き残り、なおかつ単数と複数の両方を兼ねるようになっている。

The hare he bounds across the page

Past castles white and fair

Past dreaming chessmen on their boards

With a fool’s mate as a snare

野うさぎはページを跳ねまわる

いにしえの城は白くかがやき

かれらの盤上で夢見るいにしえのこまたちは

罠のようにフールズ・メイトにおちいる*

*fool’s mate チェスにおいて、最初の状態から最短の手順でチェックメイトにいたる手順。2手のチェックメイト。

So listen, so learn, so read on

You gotta turn the page, read the Book of Taliesyn

聴け、学べ、読み進めるのだ

ページをめくり、タリエシンの書を読まなくてはならない

     “Three times I have been born

      I know this from meditation…"

「我は三度生まれた

 このことを瞑想により知る……」

The bird he flies the distance

From pages two to six

Past minstrels in their boxes

To the waters of the Styx

鳥は2ページから6ページまで

はるばる飛んでゆく

棺に入ったいにしえの吟遊詩人たちは

ステュクス川へと流される*

*ギリシア神話において、冥界を流れている川。

So listen, so learn, so read on

You gotta turn the page, read the Book of Taliesyn

聴け、学べ、読み進めるのだ

ページをめくり、タリエシンの書を読まなくてはならない

Don’t take the pictures lightly

Listen to their sound

For from their coloured feeling

Experience is found

映像を軽くとらえてはならない

その音に耳を傾けよ

なぜならその色のついた感覚から

経験が見出されるからだ

So listen, so learn, so read on

You gotta turn the page, read the Book of Taliesyn

聴け、学べ、読み進めるのだ

ページをめくり、タリエシンの書を読まなくてはならない

     “All the sciences of the world are collected in my breast,

      for I  know  what  has  been,  what is  now,

      and  what  hereafter  will occur…"

「世界のすべての知はわが心に集められた、*

過去にあったこと、いまあること、

そして今後起こることを我は知っているのだからな……」

*scienceはふつうは「科学」と訳す語だが、語源はscire(知る)というラテン語であり、本来的には「知識」「わざ、術」を意味する。