Banksのオススメ曲紹介(アルバム5作品)

2026年5月15日

Banksとは

ふだんロックやポップスばかり聞いていて、R&Bはそれほどカバーしていないのだけど、たまにはこういうのも紹介してみよう。アメリカのシンガーソングライター、バンクス。ロサンジェルス出身の1988年生まれ、本名はジリアン・バンクス(Jillian Banks)という。ごらんのとおりたいへんな美貌の持ち主だが、芸名がよくないよね。ネットで検索するとちょいちょいアジーリア・バンクス(Azealia Banks)やポール・バンクス(Paul Banks, Interpolのボーカル)が出てくるし、ときには文字どおり銀行(banks)が出てくる笑 デビューは2013年なので、キャリアとしてはそろそろ中堅にさしかかるというところ。

ジャンル的にはエクスペリメンタル寄りのR&B、あまり耳慣れない言い方だけどオルタナティブR&Bというところだと思う。わかりやすくいえばレディ・ガガmeetsラナ・デル・レイみたいな音楽。あるいは「Look What You Made Me Do」のような私怨たらたらの曲を作りつづけていた場合のテイラー・スウィフト(もっとも、テイラーってそもそもが陽キャで、おまけに超人的なまでにタフなので、この仮定じたい無理があるのはわかっている)。影響を受けた主なミュージシャンはローリン・ヒルとフィオナ・アップルだそうで、一部の音楽ファンにはこの情報だけで「あーはいはい、そういう系の人ね」と察せられるかもしれない笑 フィオナは『Fetch the Bolt Cutters』(2020)がピッチフォークで満点を獲得して話題になってたっけね。

日本での知名度は皆無なわけだが、デビューアルバム『Goddess』(2014)のみユニバーサルから日本盤が出ている。セールス的には『Goddess』が全米12位、セカンド『The Altar』が17位、サード『III』が21位と下降の一途をたどっているものの、それでもインディー系のアーティストからしたらこれはかなりの好成績を収めているといっていい。そりゃテイラー・スウィフトとかラナ・デル・レイみたいな化け物にはかなわないけど、アメリカ本国では相応の評価を受けているわけで。なぜこの国ではここまで知名度がないのかふしぎだ。

売れすぎてメジャーになってしまえば、インディー系のアーティストは大衆の好みに束縛され、もはやインディー系としての自由を失うというジレンマにおちいる。比較的ちいさなファン層に支持されていたミュージシャンが予想外に売れてしまった結果、つまらないスターダムに堕してしまうというのはよくある話だ。とはいえ、自分の推しているアーティストはできるだけ多くの人に知ってもらいたいのがファン心理というもの。僕なんかが心配するまでもなく、バンクスがこの国でヒットすることは未来永劫にないと思うので、まあ興味があれば聞いてみてください(SNSでバズる程度のことはあるかもしれないけど)。

オフィシャルウェブサイトはこちら。

Goddess(2014)

僕はCDをもっているが、ケースまでレッドカラーというつくりになっていて禍々しい。怪しい秘密結社みたいなロゴ、そして右下にはParental Advisory……

2014年にハーヴェスト・レコーズよりリリースされたファーストアルバム『Goddess』(ゴッデス、「女神」の意味)。2013年に「Before I Ever Met You」をSoundCloudに投稿したところ、これがBBCラジオでとりあげられ注目を集めた。以後、とんとん拍子に2枚のEPをリリース、そしてこのファーストにたどりついたわけだが、彼女独特の、妖しくて、危険な香りのするダークな世界観は最初からすでに完成されている。

プロデューサー陣にSohn(以降、バンクス作品の主要プロデューサーになる)やリル・シルヴァ(アデルの『25』も手がけている)などが名を連ねており、リリース前にザ・ウィークエンドのオープニングアクトを務めたりもしているあたり、新人としては実力・注目度ともに十分だったことがうかがえる。なおアルバムデビュー10周年にあわせ、2024年12月に本作のアコースティックバージョンである『Goddess: Unplugged』がリリースされた。最新作『Off with Her Head』(2025)制作の時期に重なり、生楽器主体をフィーチャーした柔らかいサウンドはこちらでも随所で聞くことができる。

バンクスのルーツはあくまでローリン・ヒルやアリーヤ、それにエリカ・バドゥといった90年代後半~ゼロ年代初頭のR&Bにある。あのころのJ-POPシーンをふりかえってみても、安室奈美恵とかMISIAとか宇多田ヒカルとか倉木麻衣とか、みんなそういうテイストの音楽をやっていた。R&Bこそが時代のトレンドだったのだ。ストロークスとかホワイト・ストライプスとかキングズ・オブ・レオンとかロック勢もがんばってたわけだが、健闘もむなしく、こんにちのアメリカではR&Bやヒップホップのほうが若者の支持を勝ち得ている。

自己表現の手段としてR&Bを選びとったバンクス。ゼロ年代に入ってからエイミー・ワインハウス、アデルといったUK発の女性ミュージシャンがR&Bを取り込んだポップスで人気を博したわけだが、白人がR&Bやソウルを模倣する例は数多くあれど(いうまでもなく日本人がR&Bを模倣する例も)、それを主体にするというのはなかなか続かない傾向にある気がする。だいたいはR&b風味、ソウル風味のポップスに流れていくのだ。

興味深いことに、R&Bと相性がいいはずのソウルやヒップホップの要素は初期のバンクスにはあまりみられず、むしろエレクトロニカやインディーポップのほうが主たる参照元になっている。ということで、バンクスのファーストはラナ・デル・レイの『Born to Die』(2012)、ロードの『Pure Heroine』(2013)、ハイムの『Days Are Gone』(2013)なんかをリアルタイムで好んで聴いていた自分には感性的にしっくりくるものだった。

M9「ドラウニング」、M10「ベギン・フォー・スレッド」は一般的な歌ものに近いので聞きやすい。R&BのBはブルーズ(blues)なので、ほんらいはべつに明るい音楽じゃないんだよね。バンクスが最初に注目されたのはイギリスだったというのもうなずける暗鬱なサウンド。最近、マッシヴ・アタックの「Teardrop」をカバーしているので、本人もそのへんはかなり意識していると思う。

The Altar(2016)

なにを思ったかセカンドでノーメイクになる。ついでにいうとこの人はふり返った構図の写真が多い

2016年のセカンドアルバム『The Altar』(ジ・オルター、「祭壇」の意味)。プロデューサー陣も似たような感じだし、基本的に前作の路線を踏襲しているが、冷え冷えとして無機質な曲が大半をしめていたファーストにくらべ、メジャー寄りかつアッパーな雰囲気の曲が増えた。「マザー・アース」のような人の体温を感じさせるアコースティック・サウンドがでてきたのは大きな変化だといえよう。

歌詞の過激さはあいかわらずだが、考えてみるとレディ・ガガにせよラナ・デル・レイにせよ、みんな育ちはいいんだよね。やっぱり親が厳格なキリスト教徒だったりして、道徳的に抑圧されて育つと反動で過激化してしまうのだろうか。ちなみにバンクスはユダヤ系だが、ティーンエイジャーのころに両親が離婚しており、そのことのほうがこの人には大きく影響しているように思う。

M1「ジェミナイ・フィード」、M8「マザー・アース」。M1の歌詞にはタイトルへの、そしてM8にはジャケット写真の意味についての言及がある。

III(2019)

『III』っていうタイトルは、ポーティスヘッドの『Third』とおなじ発想。メイクはもどったが、こんどはタイトルを考えるのを放棄した?

2019年のサードアルバム『III』。2019年といえばビリー・アイリッシュがデビューした年である。個人的にそんなにいいとは思わないけど、彼女が出てきたのはやっぱり衝撃的ではあった。日本の保守的なメディアがこういうアーティストを取り上げたりするあたり、時代が変わってきたなと感じたのをおぼえている。

で、バンクスのこのサードだけれども、いかにもクラブとかでかかってそうな安っぽいサウンドに聞こえてしまって、これもまた当時はあんまりおもしろいと思えなかった。インディーフォークから出発したはずのシャロン・ヴァン・エッテンが、『Remind Me Tomorrow』(2019)でとんでもなくダークなシンセポップをやってみせ、しかもそれがたいそう秀逸だったのも分が悪かった。でも時間がたってみれば「あれ、そんなに悪くないじゃないか」と、けっこう好んでリピートしている自分がいる。M8「ハワイアン・メイジズ」(「ハワイの迷宮」の意味)を聴いているとせつなくなれるのだ。

M5「ゴッドレス」、M7「ルック・ワット・ユーアー・ドゥーイング・トゥ・ミー」。M5は"Cause you’ve been my god, my god / And when you’re gone, I’m godless, I’m godless"(あなたは私の神だから/あなたがいなくなれば、私は神を失う)とかいってて、メンヘラの極致を楽しめる。M7はフランシス・アンド・ザ・ライツ(フランシス・フェアウェル・スターライトを中心とする音楽グループ)とのコラボ曲で、「愛とはなにか」をバンクス流に解釈したもの。

Serpentina (2022)

白と黒のコントラストをモチーフに、顔をぐるぐる巻きにしてみました

2022年のフォースアルバム『Serpentina』(サーペンティーナ、おそらくはserpentine(蛇の、蛇状のもの)に由来する造語)。今作からハーヴェストを離れ、ソニー傘下のAWALおよび彼女が立ち上げたHer Name Is Banksからのリリースとなる。セカンド、サードとつづいたメンヘラ路線に満足した(?)のかわからないが、コロナ禍のバンクスは自立や独立を主たる目標に、黙々と曲を書いていたみたいだ。その成果としてメロディアスなシンセベースや、野性味を感じさせるパーカッションなど、表現の幅が広がっている。

でも独立をはたした影響なのか、それまでの作品にあった音の重厚さが弱まったような気がして、個人的にはそれほど評価していない。あとからふりかえると、これが過渡期のはじまりということになるだろう。

M4「ミーティオライト」、M6「ザ・デビル」。今作からバンクス本人がアルバムのプロデュースにたずさわるようになったほか、ミュージックビデオについても主体的に制作にかかわるようになった。M7「スキニーディップト」ではブルガリのジュエリー(セルペンティ・シリーズ)がフィーチャーされており、これがアルバムタイトルとも関わりがある。フランシスカ・バレンスエラ(チリのSSW)を彷彿とさせる雰囲気。

Off with Her Head(2025)

首、討ち取ったり! でもマスク。そしてこの格好。きっと凡人には理解しがたいメッセージが込められているのだろう

2025年のフィフスアルバム『Off with Her Head』。「彼女の首をはねろ」という物騒なタイトルに反して、これまででもっともリラックスした、あたたかい雰囲気の曲がならぶ。より正確にいえば、とげとげしさが薄れているというところか。引き続きAWALおよび自身のレーベルであるHer Name Is Banksからのリリース、また前作では不参加だったSohnがプロデューサーとしてふたたび帰ってきた。

ドーチー(Doechii)、サンファ(Sampha)、イスルト(Yseult)といったR&B系ミュージシャンとのコラボ曲が収録され、彼女の交友関係がうかがえるほか、プライベートでは、同年にラクロス選手のドルー・スナイダーと結婚し、今年になって第一子を出産している。そういったところをひっくるめて、本作は非常に充実した仕上がりになっていると思う。個人的に、近年のお気に入りのひとつになった。

M3「ラヴ・イズ・アンカインド」、M7「ベスト・フレンズ」。M3は弱い人は酔いそうな映像。モノクロに子ども時代と、いずれもすこしふっきれた感とノスタルジアが伝わってくる。

洋楽Banks

Posted by Kenny