ゼロ年代の洋楽ロックをふりかえる②

前回の投稿のつづき。今回は「インディーロック周辺」「エクスペリメンタル・ロック周辺」をあつかい、補足として最後にロック以外のジャンルをざっと概観する。

インディーロック周辺

◆アーケード・ファイア(Arcade Fire)

カナダ発、ゼロ年代インディーロックの代表格。アートロック、バロックポップ的な側面もつよい賑やかなサウンドだが、あくまで土台はポストパンクやオルタナにあり、ロックというジャンル特有の熱さ・抒情性をしっかり表現しているところがとてもいい。3rd『The Suburbs』(2010)は個人的に人生のベスト10選にいれたいくらいだ。でもジェームズ・マーフィー(LCDサウンドシステム)をプロデューサーに迎えてダンス要素を導入した4th『Reflektor』(2013)、急激にポップ化した5th『Everything Now』(2017)あたりの叩かれ方はちょっとすごかった。僕としてはこれはこれでありだと思うのだけど。とりあえず、ゼロ年代洋楽ロックを語るうえで1st『Funeral』(2004)は素通りできないものだ。

♪「ネイバーフッド#2(ライカ)」(Neighborhood#2(Laïka))

カナダのインディーズというところと関連して、ブロークン・ソーシャル・シーン(Broken Social Scene)も。ファイストも参加しているスーパーバンド。4th『Forgiveness Rock Record』(2010)は当時よく聴いた記憶がある。この作品をとおしてレヴェリー・サウンド・レヴューにもいきついた。

♪「フォースト・トゥ・ラヴ」(Forced to Love

◆ザ・ナショナル(The National)

かれらについては個人的に思い入れがありすぎて、どう書いたらいいのかもよくわからない。最推しの存在。しかし「ゼロ年代のロックバンド」としてとらえるならば、現在のかれらからすると意外なまでにアメリカという土地の匂いをつよく感じさせるオルタナティヴ・ロック(初期の3作品)を経て、4th『Boxer』(2007)で大物としての頭角をあらわしたということになるだろう。フロントマン、マット・バーニンガーのダンディなボーカル、アーロン&ブライスのデスナー兄弟(アーロンはおもにインディーミュージシャンのプロデュースを、ブライスは現代音楽や映画音楽をバンド外で手がけてもいる)による緻密で繊細な音づくりと聞きどころは多いが、かれらがほんとうに傑出した存在になっていくのは2010年代に入ってからだ。詳しくは、お手製のアーティスト紹介ページを参照してほしい。

♪「アパートメント・ストーリー」(Apartment Story)

◆TV・オン・ザ・レディオ(TV On The Radio

ザ・ナショナル同様、個人的に非常に思い入れのあるバンド。3rd『Dear Science』(2008)はゼロ年代のUSインディーロックを象徴する1枚かと思う。かれらの音楽はそれじたいがアメリカの人種的・文化的多様性を体現するかのような「ジャンルのごった煮」であり、したがってなにがコアにあるのか表現するのに苦労するのだが、とりあえずはエレクトロニカでコーティングされたR&Bやソウル、ファンク、あるいはエクスペリメンタルなエレクトロポップとでもいえるだろうか。「なにをいってるんだ?」とつっこまれそうだが、ほんとうにそんなかんじだし、だからといって難解には聞こえず、ポップにまとまっている。この音づくりは有名プロデューサーでもあるデイヴ・シーテックの手腕によるところが大きい。

♪「DLZ」

関連して、デイヴ・シーテックのソロ・プロジェクトであるマキシマム・バルーン(Maximum Balloon)を。アルバム1枚を出しただけで終わったが、TV・オン・ザ・レディオのトゥンデ・アデビンペ、キップ・マローンをふくむ多彩な10人のゲストをフィーチャーしたこの作品はとても魅力に満ちている。僕はこのアルバムをとおしてセオフィラス・ロンドンホリー・ミランダリトル・ドラゴン(ユキミ・ナガノを中心とするスウェーデンのグループ)を知った。

♪「グルーヴ・ミー」(Groove Me(feat. Theophilus London))

◆ヤーヤーヤーズ(Yeah Yeah Yeahs)

カタカナ表記するとものすごくダサい。しかしカレン・O率いるこのアートなパンクバンドは最高にエキセントリックでクールである。TV・オン・ザ・レディオのデイヴ・シーテックがプロデュースを手がけており、本質的なよさは1st『Fever to Tell』(2003)や2nd『Show Your Bones』(2006)の適度にラフなサウンドにあるだろう(3rd『It’s Blitz!』(2009)は一転してシーテックお得意のダンスサウンドになるが、よくもわるくもこれはつくり込みすぎ、このバンドのよさを損なっている)。これってゼロ年代にあらわれたスージー&ザ・バンシーズなんじゃ?という雰囲気だが、彼女らにゴシックや呪術の要素はとぼしいので、じつはセレブレーションのほうにその形容を用いるのが正しいかと。

♪「デート・ウィズ・ザ・ナイト」(Date with the Night)

比較のために、21世紀のスージー&ザ・バンシーズ、セレブレーション(Celebration)を。シーテックがプロデュースを手がけたゴシック・バンド。フロントウーマンのカトリーナ・フォードはTV・オン・ザ・レディオのアルバム制作にも参加している。まさに知る人ぞ知るというレベルのバンドだが、所属レーベルは4ADである。

♪「ウォー」(War)[1st『Celebration』(2005)収録]

◆セイント・ヴィンセント(St. Vincent)

本名はアニー・クラーク。セイント・ヴィンセントという芸名は、彼女の好きなディラン・トマス(イギリスの詩人)がなくなった病院の名前からとったそうだが、その発想じたいがまず変である。3rd『Strange Mercy』(2011)でいちやく知名度を上げた人で、僕もそこからはいった。インディーズとはいわば「どれだけ変であるか」を競う世界でもあると思うのだけど、彼女はここでとりあげるなかでは最上位クラスに変なんじゃないかと。夢と悪夢がかわりばんこに去来してくる空間に、狂暴なギターの雷が落ちる、そんなかんじである。バークリー音大中退(じつはジョン・メイヤーといっしょ)。でもほんとうに才能がある人は型にはまることじたいを拒否するから、アーティストにとって「中退」の二文字はむしろ勲章なんじゃないかと。

♪「ヒステリカル・ストレンクス」(Hysterical Strength)

ウォーペイント(Warpaint)

2004年にLAで結成されたインディーロックバンド。ドラマー(シャニン・ソサモン。ジェニー・リー・リンドバーグ(B)の姉)が「女優業が忙しくなってきたんでやめるわ~」ということで、現在のステラ・モズガワが加入。当初こそガールズバンドにありがちなゆる~い雰囲気だったが、このステラがまたすごい人で、上述のセイント・ヴィンセントをはじめいろんなインディーミュージシャンといっしょに仕事をしている。リズム隊がパワフルで非常にかっこよく、その意味で2nd『Warpaint』(2014)でダンスポップ、エレクトロニカのほうに舵をきったのは正解だと思う。エミリー・コーカルも好きだけど、個人的には低血圧で朝に弱そうなテレサ・ウェイマンが推し。

♪「アンダートウ」(Undertow)*とはいえ2014年となるとゼロ年代から離れすぎるので、1st『The Fool』(2010)の曲をあげておく。

「インディーロック周辺」というくくりにしてみたが、広義には前回の「ガレージロック・リヴァイヴァル関連」でとりあげたバンドたちもみなここにカテゴライズされうるということを補足しておく。ただしその逆、つまりここで紹介したアーティストたちがガレージロック・リヴァイヴァルの文脈で語られることはあまり一般的ではないと思う。

よく誤解されるが、インディーズだからといって売れもしないし、文化的影響力が劣るというようなことはかならずしもいえない。キングズ・オブ・レオンはもともとインディーズ出身だが、いまではアメリカン・ロックの大物である。特筆すべきはヴァンパイア・ウィークエンドで、3rd『Modern Vampires of the City』(2013)以降、インディーズと呼ぶにはあまりにビッグな存在になっていくため、かれらについては「2010年代の洋楽」といったようなところに持ち越すのが適切と判断した。

ザ・ナショナルとTV・オン・ザ・レディオはインディーシーンにおける一種の文化的ハブとして機能しているようなところがある。近年、ザ・ナショナルはメジャー感をつよめると同時に他アーティストとのコラボもふえてきているし、主要メンバーの個々の活動(とくにデスナー兄弟)も盛んである。同じことはTV・オン・ザ・レディオにもいえる。デイヴ・シーテックのプロデューサーとしての顔にばかり注目がいきがちだが、トゥンデ・アデビンペやキップ・マローンにしても自身の活動や他アーティストとのコラボに消極的なわけではない。ザ・ナショナルが直接的・間接的にもテイラー・スウィフトエド・シーランと、TV・オン・ザ・レディオがデヴィッド・ボウイやデヴィッド・バーンとそれぞれ関連を有するというようなことを考えると、メジャーシーン・インディーシーン両方に目をむけていかなければ、これからの時代の洋楽はとてもついていけなくなるという気がする(注)。

(注)ザ・ナショナルは『First Two Pages of Frankenstein』(2023)収録の「The Alcott」でテイラー・スウィフトと共演し、アーロン・デスナーは彼女の『folklore』(2020)、『evermore』(2020)、『The Tortured Poets Department』(2024)の3作品、それにエド・シーランの『Autumn Variations』(2023)のプロデュースを手がけている。テイラーはカントリーポップ、エドはフォークにルーツをもつミュージシャンなので、ザ・ナショナルのオーガニックでありアーティスティックでもあるアプローチに共鳴するものがあったということだろう。

TV・オン・ザ・レディオは、デヴィッド・ボウイが2nd『Return to Cookie Mountain』(2006)収録の「Province」にコーラスとして参加しており、デヴィッド・バーンはシーテックの「Apartment Wrestling」でボーカルとしてフィーチャーされている。バーンはセイント・ヴィンセントとも『Love This Giant』(2012)を共作しているし、ヴァンパイア・ウィークエンドがトーキング・ヘッズ流のアフロ・ポップサウンドを土台にしていたりと、むしろ近年のほうが影響力が増しているようにもみえる。

エクスペリメンタル・ロック周辺

「エクスペリメンタル」(experimental)とは「実験的な」という意味。ガレージロック・リヴァイヴァルがゼロ年代ロックの表舞台だとしたら、あまり日の当たらないところでユニークな音楽性を有するグループが脈々と息づいているのがUSインディーのおもしろいところである。

◆ダーティー・プロジェクターズ(Dirty Projectors

デヴィッド・ロングストレスのソロ・プロジェクトとして2002年に結成。注目をあびたのは6th『Bitte Orca』(2009)だろう。7th『Swing Lo Magellan』(2012) もリアルタイムでよく聞いたおぼえがある。ロングストレスがワンマンなのか、メンバーチェンジを幾度もくりかえしているが、個人的にはエンジェル・デラドゥリアンとアンバー・コフマンがいた頃が好きだ。ブラック・フラッグの『Damaged』(1981)を記憶にもとづいて再解釈した5th『Rise Above』(2007)なんか発想がまずぶっ飛んでいるし、EP『Mount Wittenberg Orca』(2010)ではビョークとコラボしている。へんてこだけどバツグンにポップな音楽を聞きたい層にはうってつけのバンドだろう。

♪「ユースフル・チェンバー」(Useful Chamber)

◆グリズリー・ベア(Grizzly Bear

エド・ドロストのソロ・プロジェクトとして出発。ゼロ年代エクスペリメンタル系のなかではひときわ有名な部類だと思う。3rd『Veckatimest』(2009)、4th『Shields』(2012)といずれも評価の高い作品をリリースした。しかし2020年にエドが「セラピストになりたい」という理由で脱退、このままジョイ・ディヴィジョンがニュー・オーダーとして生まれ変わったのとおなじ道をたどるかと思いきや、2025年にもどってきて無事に再始動をはたした。上述のダーティー・プロジェクターズと比べるとメンバーが固定されているぶんまとまりがあるし、ロックバンド然としている。

♪「トゥー・ウィークス」(Two Weeks)

◆アニマル・コレクティヴ(Animal Collective

エイヴィ・テア、パンダ・ベアを中心にメリーランド州ボルティモアで結成。ビーチ・ハウスフューチャー・アイランズゆかりの地でもあり、音楽産業も盛んである。8th『Merriweather Post Pavilion』(2009)が全米13位のヒットを記録。サイケデリック・サウンドというと古いところではピンク・フロイドに代表されるプログレ、『Sergeant Pepper’s』(1967)のころのビートルズなんかを連想するが、ゼロ年代ともなるとこうしたおしゃれでポップなサウンドとマッチするようになる。ブラック・モス・スーパー・レインボーなんかも一時期聞いていたのを思い出す。とはいえ、近年、サイケデリック・サウンドで規格外の成功をおさめた例としてテーム・インパラを忘れるわけにはいかない。

♪「マイ・ガールズ」(My Girls)

エクスペリメンタル・ロックだとほかにディアハンター、サイケデリックなポップサウンドというところだとMGMT、エモ系だとザ・ドラムス「Let’s Go Surfing」は流行ったね)とかもいた。でも自分のなかでは「あんまり残らんなあ」という印象。

補足:ロック以外のジャンル

「ゼロ年代の洋楽ロック」というテーマだが、とうぜんロックだけが独立して存在しているわけではないため、他のジャンルがどのような状況だったかについてもざっと確認しておきたい。

まずポップスター。マイケル・ジャクソンやマドンナ・クラスのアーティストとなると、レディ・ガガケイティ・ペリー、そしてテイラー・スウィフトを挙げねばならない。しかしデビュー時期に目をむけると、テイラーがいちばん早くて2006年、ガガが2008年、ケイティがおなじく2008年であり、いずれもスターダムをかけあがっていくのは2010年代に入ってからである。

極端ないい方をすると、ゼロ年代はポップアイコン不在の時代であり、存在感があったのはバックストリート・ボーイズやマルーン5といった男性グループということになる。このころはブルーノ・マーズもエド・シーランもまだ出てきていない。デビュー当初のテイラーはせいぜいがシャナイア・トウェインの後継者的なカントリーポップ・シンガーであり、のちにここまで巨大な世界的成功をおさめることになるとだれが予想しただろうか。

つづいてR&Bやヒップホップシーン。デスティニーズ・チャイルドが解散しソロデビューしたビヨンセ、ラッパーのジェイZカニエ・ウェスト、それから白人ラッパーとして成功をおさめたエミネム。かれ以前にもビースティ・ボーイズやレッド・ホット・チリペッパーズなど、要素としてラップをとりいれた白人グループはあったわけだが、ラッパーとして一般的な知名度を獲得するに至ったのはエミネムが初である。なお、コアなヒップホップに目を向けると話が広がりすぎるのでここでは割愛する(おなじ理由でハウスやテクノ、エレクトロニカなどにも立ち入らない)。

それからUKを見わたすと、1960年代のR&Bやガールズポップにモダンな解釈をほどこしたエイミー・ワインハウス、ポップスでありながら非常にソウルフルなアデルといった才能がでてきたのもこの時代。クラブシーンから出てきたM.I.A.や、オルタナティヴ・ポップのバット・フォー・ラッシーズといったインディーミュージシャンも独特の存在感を放った。

フォークシーンでは、90年代後半にデビューしたギリアン・ウェルチがこんにちに至るまで非常に高い評価を得ている。インディーロックとも接続するところだと、フリート・フォクシーズスフィアン・スティーヴンズボン・イヴェールなどが主要なアーティストと思われる。便宜上フォークとしたが、総じてこのジャンルにおさまりきらない音楽性をもったミュージシャンも多く、ロックシーンと同様にジャンルの多様化・細分化はフォークにおいてもおおいに進行中であるという印象をうける。

洋楽

Posted by Kenny