【歌詞対訳】”Working for the Knife” / Mitski

2026年8月4日

6作目のアルバム『ローレル・ヘル』(Laurel Hell, 2022)からの先行リードシングル。『Puberty2』(2016)につづき『Be the Cowboy』(2018)でも成功をおさめたミツキ。パフォーマンス面でも土方巽や大野一雄らの舞踏をとりいれるなど新境地を切りひらくも、同時に音楽業界を去ることも考えていたのだという。リリースはコロナの余波がつづいていた2022年だが、書かれたのは2019年であり、当時の彼女の心のうちがどのようなものだったのか赤裸々に、しかし象徴的に語られる。ひとまず自分としては、この稀有な才能の持ち主が音楽業界にとどまってくれたことに感謝するほかない。

ナイフという硬質かつ強度のあるメタファーが、この曲にこめられた彼女の決意にたしかさを与えている。人間は包丁やメス(英語ではいずれもナイフ)で切ることによって、命をはぐくむ料理をつくることもできるし、病巣をとりのぞくための手術もできる。しかしながら、使い方をあやまればだれかを――もちろん自分自身をも――傷つける道具になってしまう。ざっくりといえば、切るという行為にはそうした利益と損害の両面があるわけだ。

そうした両義性のあるモノとしてのナイフが、「I start the day high and it ends so low」や「I start the day lying and end with the truth / That I’m dying for the knife」といった作詞におけるあざやかな対比構造を下支えしている。「ナイフがほしくてたまらない」(be dying forは「~がほしくてたまらない」(直訳すると「~のために死につつある」)だが、これじたいも前ヴァース最終行の「That I’m living for the knife」と対をなす。生と死の交錯である)というのが嘘であり、また真実であるという表現に、ミツキというミュージシャンの強さと弱さが読み取れるように思う。

“Working for the Knife” (written by Mitski Miyawaki)

I cry at the start of every movie

I guess 'cause I wish I was making things too

But I’m working for the knife

「ワーキング・フォー・ザ・ナイフ」

どの映画を観ても最初で泣いてしまう

たぶん自分もなにか作れたらいいのにと思うから

でも私はナイフをもとめて働いてる

I used to think I would tell stories

But nobody cared for the stories I had about

No good guys

自分は物語を語っているんだと思ったこともあった

でも私の物語が好きな人なんていなかった*

ろくでもない男たちとの物語なんて

*care for…「…が好きである(like)」

I always knew the world moves on

I just didn’t know it would go without me

I start the day high and it ends so low

'Cause I’m working for the knife

世界が回りつづけていることはいつだって知ってた

知らなかったのは私がいなくても変わらず回っていくこと

高揚した気持ちで一日をはじめ、ひどく沈んで終わる

だって私はナイフをもとめて働いてるから

I used to think I’d be done by twenty

Now at twenty-nine, the road ahead appears the same

Though maybe at thirty, I’ll see a way to change

That I’m living for the knife

自分は20歳までに死ぬんだと思ったこともあった

29歳のいま、目の前の道はまったくおなじに見える

たぶん30歳になっても、変えるための方法を検討するだろう

ナイフをもとめて生きている自分のあり方を

I always thought the choice was mine

And I was right, but I just chose wrong

I start the day lying and end with the truth

That I’m dying for the knife

選ぶことは自分の側にあるといつも思ってた

私は正しかった、でも間違ったものを選んだ

嘘をついて一日をはじめ、真実とともに終える

私はナイフがほしくてたまらないんだと