【歌詞対訳】”Everybody Knows” / Leonard Cohen
8枚目のアルバム『アイム・ユア・マン』(I’m Your Man, 1988)に収録。80年代はレナード・コーエンでさえこのようなアルバムを作る時代だった。いや、レナード・コーエンだからこそ、というべきか。彼の歌は深いようでいて薄っぺらい。と同時に、薄っぺらいようでいて深い。僕はその底知れない魅力にはまってしまい、抜け出すことができずにいる。
この歌は「誰もが知っている」というフレーズにのせて20世紀後半のアメリカの歴史をアレゴリカル(寓話的)に、メタフォリカル(暗喩的)に語る。「アヴァランチ」("Avalanche")や「ザ・フューチャー」("The Future")の系統に属す作品といっていいだろう。"Everybody knows the Plague is coming"は突如として新型コロナウイルスに襲われたこの世界に対する言及にもなった。もしかしたら、死にそうになるたびに新たな解釈によって息を吹き返し、疫病のようにいつまでもしぶとく生きながらえていくのは、他ならぬこの歌自身なのかもしれない。
“Everybody Knows” (Written by Leonard Cohen and Sharon Robinson)Everybody knows that the dice are loaded
Everybody rolls with their fingers crossed
Everybody knows that the war is over
Everybody knows the good guys lost
Everybody knows the fight was fixed
The poor stay poor, the rich get rich
That’s how it goes
Everybody knows
「誰もが知っている」
誰もが知っている ダイスには細工がしてあると
誰もがダイスを投げる 指をクロスさせて*
誰もが知っている 戦争はもう終わったと
誰もが知っている 良き男たちが敗れたと
誰もが知っている 戦いは仕組まれていたと
貧しい者は貧しいまま、富める者は富めるままだ
そういうものだよ
誰もが知っている
with their fingers crossed: 「幸運を祈る」という意味のジェスチャー。人差し指の背中に中指の腹をからめて重ねる。
Everybody knows that the boat is leakingEverybody knows that the captain lied
Everybody got this broken feeling
Like their father or their dog just died
誰もが知っている 船は浸水していると
誰もが知っている 船長が嘘をついたと
誰もがこんな打ちひしがれた気持ちでいる
まるで父親や飼っている犬がたった今死んでしまったみたいに
Everybody talking to their pocketsEverybody wants a box of chocolates
And a long stem rose
Everybody knows
誰もがポケットにささやきかけている
誰もがほしがっている 箱一杯のチョコレートと
茎の長いバラを
誰もが知っている
Everybody knows that you love me babyEverybody knows that you really do
Everybody knows that you’ve been faithful
Ah give or take a night or two
Everybody knows you’ve been discreet
But there were so many people you just had to meet
Without your clothes
And everybody knows
誰もが知っている お前は私を愛してるってな、ベイビー
誰もが知っている お前は本気なんだと
誰もが知っている お前は信心深いと
ああ、一晩か二晩、くれるか取るかするがいい
誰もが知っている お前は思慮深いと
でも服を脱いでから
会わないといけない人がたくさんいたんだよな
誰もが知っている
*Everybody knows, everybody knowsThat’s how it goes
Everybody knows
誰もが知っている、誰もが知っている
そういうものだよ
誰もが知っている
And everybody knows that it’s now or neverEverybody knows that it’s me or you
And everybody knows that you live forever
Ah when you’ve done a line or two
Everybody knows the deal is rotten
Old Black Joe’s still pickin’ cotton
For your ribbons and bows
And everybody knows
誰もが知っている 今でなければもう二度とないと
誰もが知っている それは私かお前だと
誰もが知っている お前は永遠に生きると
ああ、コカインを一巻きや二巻きやればな
誰もが知っている 取引きは腐っていると
オールド・ブラック・ジョーは今でも綿を摘んでいるんだ
お前のリボンと蝶ネクタイのために*
誰もが知っている
*アメリカ歌謡の父と呼ばれるスティーヴン・フォスターの楽曲「オールド・ブラック・ジョー」(“Old Black Joe”)への言及。歌の中で、オールド・ブラック・ジョーという年老いた黒人奴隷は南部の農園(プランテーション)で綿を摘み取る労働に従事している。
And everybody knows that the Plague is comingEverybody knows that it’s moving fast
Everybody knows that the naked man and woman
Are just a shining artifact of the past
Everybody knows the scene is dead
But there’s gonna be a meter on your bed
That will disclose
What everybody knows
誰もが知っている 疫病が近づいてきていると
誰もが知っている それは素早く広がっていくと
誰もが知ってる 裸の男と女は
過去の輝ける遺物に過ぎないと
誰もが知っている シーンは死に絶えていると
でもお前のベッドには
誰もが知っているものを計り
暴く者が横になるだろう
*1960年代~70年代は性革命(the Sexual Revolution)によって従来の性規範が乱れた時代でもあった。歌詞の「疫病」とは、その結果1981年にアメリカではじめて確認されたエイズの暗喩ではないかという見方もある。
And everybody knows that you’re in troubleEverybody knows what you’ve been through
From the bloody cross on top of Calvary
To the beach of Malibu
Everybody knows it’s coming apart
Take one last look at this Sacred Heart
Before it blows
And everybody knows
誰もが知っている お前は窮地に立たされていると
誰もが知っている お前が通り抜けてきたものを
カルヴァリの頂上の血まみれの十字架から
マリブビーチまで*
誰もが知っている それはバラバラになっていくと
破裂してしまう前に
この神聖な心を最後に一度だけ見るがいい
誰もが知っている
*カルヴァリ:キリストはりつけの地で、エルサレム近傍の丘
*マリブビーチ:ロサンジェルス西方の海浜地・高級住宅地
*繰り返し
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