【歌詞対訳】”Suzanne” / Leonard Cohen
デビュー・アルバム『レナード・コーエンの唄』(Songs of Leonard Cohen, 1967)に収録。僕がこの偉大な吟遊詩人を聴きはじめたのは大学を卒業する半年くらい前のことだったが、それまでは「ハレルヤ」で有名な人くらいの認識しかなかった。その「ハレルヤ」もいまいちピンとこなくて、むしろジェフ・バックリーのカバーのほうがいいと思っていたくらいだ。当時はむしろボブ・ディランに夢中だった。2016年にディランがノーベル文学賞を受賞したとき、一部ではコーエンのほうがふさわしいのではないかという声もあがったみたいだが、やはり文化的な影響力の大きさで考えたらディランのほうが圧倒的に上だろう。しかし、ディランは最初から別格という先入観があったのに対し、聴けば聴くほど自分のなかでどんどん存在感が大きくなっていったのはコーエンのほうだった。
個人的に訳してみたい曲は山のようにあるが、今回は初期の名曲のひとつ"Suzanne"をとりあげる。コーエンは詩人として出発しており、詩集Parasites of Heaven(1966)に収められた一編"Suzanne Takes You Down"をもとにした曲である。夢想的な詩の世界と、たゆたうようなメロディがぴったり調和していて、歌手デビューは33歳と遅咲きながら、すぐれたシンガーソングライターとしての資質を十分感じさせる。
“Suzanne"(作詞・作曲:Leonard Cohen)Suzanne takes you down to her place near the river
You can hear the boats go by
You can spend the night beside her
And you know that she’s half crazy
But that’s why you want to be there
And she feeds you tea and oranges
That come all the way from China
And just when you mean to tell her
That you have no love to give her
Then she gets you on her wavelength
And she lets the river answer
That you’ve always been her lover
And you want to travel with her
And you want to travel blind
And you know that she will trust you
For you’ve touched her perfect body with your mind.
「スザンヌ」
スザンヌは川のほとりにある彼女の場所へきみをつれていく
小舟が通りすぎていく音が聞こえる
彼女のそばで夜を過ごしてもいい
彼女はなかば気が狂っていると知っている
でもだからこそきみはそこにいたいんだね
彼女はきみにお茶とオレンジを出してくれる
はるばる中国からもたらされたものだ
彼女に与えることのできる愛はないのだと
まさに意を決してきみが言おうとしたとき
彼女は自らの好みにきみを引きつけ
川に答えさせる
きみはどんなときでも彼女の恋人なのだと
そしてきみは彼女と旅をしたいと思う
あてのない旅をしたいと思う
彼女は自分を信頼してくれるだろうときみは知っている
きみはその心で彼女の完璧な身体にふれたのだから
And Jesus was a sailorWhen he walked upon the water
And he spent a long time watching
From his lonely wooden tower
And when he knew for certain
Only drowning men could see him
He said “All men will be sailors then
Until the sea shall free them"
But he himself was broken
Long before the sky would open
Forsaken, almost human
He sank beneath your wisdom like a stone
And you want to travel with him
And you want to travel blind
And you think maybe you’ll trust him
For he’s touched your perfect body with his mind.
水のうえを歩いたとき
イエスは船乗りだった
さびしい木の塔から
長いこと見張りをして過ごしていたとき
ただ溺れ死んでいく者たちだけが自分を見ることができるのだと
確信していたとき
彼は言った、「ではすべての人間は船乗りになるだろう
そしてついには海が彼らを自由にするだろう」
けれど空がひらけるずっと前に
彼自身は打ちひしがれていた
見捨てられ、かろうじて人間でいる
彼はきみの知恵の下に石のように沈んでいった
きみは彼と旅をしたいんだね
あてのない旅をしたいんだね
たぶん彼のことを信頼できるときみは思う
彼はその心できみの完璧な体にふれたのだから
Now Suzanne takes your handAnd she leads you to the river
She is wearing rags and feathers
From Salvation Army counters
And the sun pours down like honey
On our lady of the harbour
And she shows you where to look
Among the garbage and the flowers
There are heroes in the seaweed
There are children in the morning
They are leaning out for love
And they will lean that way forever
While Suzanne holds the mirror
And you want to travel with her
And you want to travel blind
And you know that you can trust her
For she’s touched your perfect body with her mind.
それからスザンヌはきみの手をとって
きみを川へと導く
彼女は救世軍の売り場で手に入れた
ぼろ切れをまとい、羽根をつけている
日の光ははちみつのように
われわれの港の貴婦人の上に降り注ぐ
それから彼女はごみと花のなかの
どこを見ればいいか教えてくれる
海藻のなかには英雄たちがいる
朝のなかには子どもたちがいる
彼らは愛を求めて身をのりだしている
いつまでもそんなふうに身をのりだすのだろう
スザンヌが鏡を持っているあいだは
きみは彼女と旅をしたいんだね
あてのない旅をしたいんだね
彼女のことを信頼できるときみは思う
彼女はその心できみの完璧な身体にふれたのだから
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