【歌詞対訳】”Tropic Morning News” / The National

2024年2月7日

9枚目のアルバム『フランケンシュタインの最初の2ページ』(First Two Pages of Frankenstein, 2023)からのファースト・シングル。前作でいえば「ライラン」("Rylan")的なポジションに位置するロックナンバーで、個人的にかなり好み。矢継ぎ早に繰り出される言葉の数々はどことなくボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルーズ」("Subterranean Homesick Blues")を思わせるところもある。"Tropic Morning News"(熱帯地方の朝のニュース)という何のことかよくわからない曲名はカリン・ベッサーによる造語で、"the practice of doomscrolling"(ネット上で悲観的なニュースや書き込みを延々とたどってしまう習慣)のことを指しているらしい。たしかに、ネット上にあふれかえっている気分を落ち込ませるだけの情報は、本当は熱帯地方の朝のニュースと同じくらい僕たちの日常に影響を与えないものだ。ネガティヴなことをユーモアを交えてさらりと表現してしまうカリンは、さすがにマットと歌詞を共同制作しているだけあってセンスがいい。

“Tropic Morning News” (written by Aaron Dessner, Matt Berninger and Carin Besser)

I wasn’t starting yet

I didn’t even think you were listening

I wasn’t ready at all

To say anything about anything interesting

「トロピック・モーニング・ニューズ」

僕はまだ始めようとしていなかった

君が耳を傾けていると思ってさえいなかった

ぜんぜん準備ができていなかったんだ

なにか面白いことについてなにかを言う準備が

It’s a thing you have

You just don’t know that you do it

You wait around in a conversation

While I get in and start stumbling through it

それは君の得意なこと

ただ気づいていないだけさ

君は僕が口を開くのを待っている

僕は会話に加わってつっかえつっかえしゃべり出す

*thingは不定冠詞aを伴うと「好きなこと」「ある特別な感情、こだわり、一種病的なもの」という意味にもなる。

I was so distracted then

I didn’t have it straight in my head

I didn’t have my face on yet, or the role, or the feel

Of where I was going with it all

その時はとても気が散っていたんだ

頭でちゃんと考えることができなかった

まだ顔も、役割も、自分がどこへ向かっているのかという

感覚もさっぱり身につけていなかった

I was suffering more than I let on

The tropic morning news was on

There’s nothing stopping me now

From saying all the painful parts out loud

僕は打ち明けたよりもずっと苦しんでいた*

熱帯地方の朝のニュースが流れていた

痛みに満ちた台詞のすべてを大声で言おうとする僕を

止められるものは何もない

*let onは熟語で「口外する、漏らす」「装う、ふりをする」。

Got to my feet

Feeling that I’d let you down

Wanted to say it slow and perfect

But it all somehow got switched around

立ち上がった

君をがっかりさせてしまうような気がした

ゆっくりと、完璧に言いたかった

でもそれはなぜかすっかりすり替わってしまった

Something went off on its own

My dumb automatic chit chat

It’s not what I meant to say at all

There’s no way you can attach me to that

何かがひとりでにおかしくなっていった

僕の自動的に始まるバカみたいなおしゃべり

そんなことぜんぜん言うつもりじゃなかったのに

僕をそんなことと結びつけるのはやめてくれ

Got up to seize the day

With my head in my hands, feeling strange

When all my thinking got mangled

And I caught myself talking myself off the ceiling

このチャンスをつかむべく立ち上がった*

気分が悪くて、両手で頭をかかえた

あらゆる考えがズタズタになっていた

しゃべっている僕、天井から落ちてくる僕を見つけた

*seize the dayはラテン語のcarpe diem(この日をつかめ)を直訳することでできた慣用句。ソール・ベローの小説Seize the Dayのタイトルにもなっている。

I was suffering more than I let on

The tropic morning news was on

There’s nothing stopping me now

From saying all the painful parts out loud

僕は打ち明けたよりもずっと苦しんでいた

熱帯地方の朝のニュースが流れていた

痛みに満ちた台詞のすべてを大声で言おうとする僕を

止められるものは何もない

Oh, where are all the moments we’d have?

Oh, where’s the brain we shared?

Something somehow has you rapidly improving

Oh, what happened to the wavelength we were on?

Oh, where’s the gravity gone?

Something somehow has you rapidly improving

ああ、僕たちがいっしょに過ごすはずだった時間はどこにいった?

ああ、僕たちがシェアしていた知性はどこへいった?

何かがなぜだか君を急速に向上させていく

ああ、僕たちの波長にいったい何が起きたんだ?

ああ、重力はどこに消えたんだ?

何かがなぜだか君を急速に向上させていく

You found the ache in my argument

You couldn’t wait to get out of it

You found the slush in my sentiment

You made it sound so intelligent

君は僕の主張のなかに痛みを見つけたんだね

そこから抜け出すのを待ち切れなかった

君は僕の感情のなかに感傷を見つけたんだね

君のおかげでそれはとても知的に聞こえた

You can stop and start an athlete’s heart

How do I feel about it?

I would love to have nothing to do with it

I would like to move on and be through with it

君はスポーツ心臓を止めたり動かしたりできる*

僕がそれをどう感じるかって?

ぜひともそれと無関係でいたいものだね

このまま進みつづけて通り抜けてしまいたい

*スポーツ心臓(athlete’s heart)は、運動選手が長期間にわたって非常に負荷のかかるトレーニングをこなすことによって生じる心臓が肥大した状態のこと。doomscrollingという情報から情報へと駆け回る運動は自分の意思で続けたりやめたりできるわけだが、それによって鍛えられた心臓ということだろうか。

I’ll be over here lying near the ocean

Making ocean sounds

Let me know if you can come over

And work the controls for a while

僕はまたこの海のそばに寝転がって

海の音を立てることだろう

来られるか教えてくれよ

しばらくのあいだ自制を働かせられるのかも

I was so distracted then

I didn’t have it straight in my head

I didn’t have my face on yet, or the role, or the feel

Of where I was going with it all

その時はとても気が散っていたんだ

頭でまっすぐに考えることができなかった

まだ顔も、役割も、自分がどこへ向かっているのかという

感覚もさっぱり身につけていなかった

I was suffering more than I let on

The tropic morning news was on

There’s nothing stopping me now

From saying all the painful parts out loud

僕は打ち明けたよりもずっと苦しんでいた

熱帯地方の朝のニュースが流れていた

痛みに満ちた台詞のすべてを大声で言おうとする僕を

止められるものは何もない

Oh, where are all the moments we’d have?

Oh, where’s the brain we shared?

Something somehow has you rapidly improving

Oh, what happened to the wavelength we were on?

Oh, where’s the gravity gone?

Something somehow has you rapidly improving

ああ、僕たちがいっしょに過ごすはずだった時間はどこにいった?

ああ、僕たちがシェアしていた知性はどこへいった?

何かがなぜだか君を急速に向上させていく

ああ、僕たちの波長にいったい何が起きたんだ?

ああ、重力はどこに消えたんだ?

何かがなぜだか君を急速に向上させていく

(参考にしたページ)

https://whenthehornblows.com/content/2023/1/19/the-national-tropic-morning-news