【歌詞対訳】”There, There” / Radiohead

6作目のアルバム『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』(Hail to the Thief, 2003)からのリードシングル。2017年には『OKコンピューター』が、つづいて2021年には『キッドA』と『アムニージアック』をコンパイルしたものがそれぞれリイシューされたが、本作についてはリイシューではなくライヴ盤『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ(ライヴレコーディングズ2003-2009)』というかたちで先日8月13日にデジタル・リリースされた(フィジカル・リリースは10月)。今年4月から6月にかけてシェイクスピアの『ハムレット』に本作の音楽をクロスオーバーさせた舞台作品『ハムレット・ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の公演がおこなわれ、そして新しいライヴ盤がリリースされ、これらをもってようやくこの作品は完成に至ったということらしい。メンバーたちはずっとこの作品が冗長で未完成であると感じていたそうだが、僕はぜんぜんそんなふうには思わず、もはやCDなのにすり切れてしまうんじゃないかというくらい何度も聴いた。最近トム・ヨークはやたら精力的に作品をリリースしているが、もはや本家レディオヘッドとしての新作リリースはないんじゃないかと思うと、いささか寂しい気持ちになる。こういった過去作品の焼き直しで我慢しろということか。

「ゼア、ゼア」は『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』のなかで断然いちばん好きな曲だ。フィルのかっちりとしたドラミングに加えてジョニーとエドがタムタムを演奏する。コリンはいつもながら躍動感あふれるすばらしいベースを弾き、このまったく普通ではないリズム・セクション重視の編成をバックに、トムがシンコペーションを多用する複雑なリズムギターを弾きながら美しく歌う。曲ぜんたいがクレッシェンドみたいな構造になっていて、すこしずつすこしずつ盛りあがっていき、最後は巨大な音のかたまりになって突進していくような感じ。リズム重視の実験的なアプローチは次作『イン・レインボウズ』でさらに発展していくことになる。

「ゼア、ゼア」の歌詞が描いているのは、セイレーンによって難破させられたり、肩のうえに乗っただれかにそそのかされたりして、「僕たち」が歩く災害(disaster)になったり、起きるのを待っている災難(accidents)になったりする状況である。私見だが、この「僕たち」という一人称複数は現代社会に生きる一般市民全体を指しているように思う。「泥棒万歳」という意味のアルバム名だが、これは2000年のブッシュ大統領当選および9.11テロを引き金とする対テロ戦争へのあてこすりだ。でも個々の楽曲をみると、たとえば「2+2=5」はジョージ・オーウェルの『1984年』からの引用だったり、「ゴー・トゥ・スリープ」はジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』のイメージの借用だったりするので、たんなるアメリカ大統領批判というよりは社会風刺や体制批判といったニュアンスのほうが強いだろう。ほかにもダンテの『神曲』やキリスト教、おとぎ話やフォークロアの要素などがパッチワーク的に用いられており、この雑然性そのものが、混沌としたこんにちの現代社会のメタファーとして機能しているようにも思える。

“There, There”

 (written by Colin Greenwood, Jonny Greenwood, Ed O’Brien, Phil Selway, Thom Yorke)

In pitch dark

I go walking in your landscape

Broken branches

Trip me as I speak

「ゼア、ゼア」

真っ暗闇のなか*

僕は君の風景を歩いていく

話そうとすると

折れた枝が僕をつまずかせる

*このpitchは「~を投げる」ではなく「ピッチ」(タールや石油を蒸留したあとに残る黒色の物質)の意味。そこからblackやdarkの強調語として用いられる。

Just 'cause you feel it

Doesn’t mean it’s there

Just 'cause you feel it

Doesn’t mean it’s there

感じるからといって

それがそこにあるとは限らない

ただ感じるからといって

それがそこにあるとは限らない

There’s always a siren

Singing you to shipwreck

(Ooh-ah, don’t reach out, don’t reach out)

(Ooh-ah, don’t reach out, don’t reach out)

Steer away from these rocks

We’d be a walking disaster

(Ooh-ah, don’t reach out, don’t reach out)

(Ooh-ah, don’t reach out, don’t reach out)

セイレーンはいつでも

君に歌いかけて難破へといざなおうとする

(手をさしのべてはいけない、手をさしのべてはいけない)

舵を切って岩をよけるんだ

僕たちは歩く災害になってしまうぞ

(手をさしのべてはいけない、手をさしのべてはいけない)

(手をさしのべてはいけない、手をさしのべてはいけない)

Just 'cause you feel it

Doesn’t mean it’s there

(Someone on your shoulder)

(Someone on your shoulder)

Just 'cause you feel it

Doesn’t mean it’s there

(Someone on your shoulder)

(Someone on your shoulder)

感じるからといって

それがそこにあるとは限らない

(君の肩に乗っただれか)

(君の肩に乗っただれか)

ただ感じるからといって

それがそこにあるとは限らない

(君の肩に乗っただれか)

(君の肩に乗っただれか)

There, there

ゼア、ゼア(まあ、まあ)

Why so green

And lonely, and lonely

And lonely?

Heaven sent you

To me, to me

To me

どうしてこんなに未熟で

孤独、孤独

孤独なんだ?

天国は君を

僕に、僕に

この僕に贈ってくれた

We are accidents

Waiting, waiting

To happen

We are accidents

Waiting, waiting

To happen

僕たちは起きるのを

いまかいまかと待っている

災難なんだ

僕たちは起きるのを

いまかいまかと待っている

災難なんだ