【歌詞対訳】”World Citizen” / David Sylvian
2003年にデヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一のコラボによって制作された曲。“World Citizen (I Won’t Be Disappointed)"のほうはずいぶん前に取り上げたことがあったが、これでようやく両方そろった。シングルEPは入手困難なので、いま聞くなら2022年に再発されたコンピレーションアルバム『スリープウォーカーズ』(Sleepwalkers)を手に取るのがいちばんてっとり早いだろう(と思っていたら、それすら品切れになっていた泣)。デビシル様の信者は基本、即買いがもとめられるのだ。
その独自の音楽世界によって知られ、さながら現代の吟遊詩人、孤高の音楽家といったイメージが定着しているシルヴィアンだが、JAPAN時代のポップな(というよりも痛い)作風からわかるように、根はけっして芸術至上主義の殻にとじこもるタイプではなく、このような明快なメッセージソングを手がけてもいる。ジョン・レノンの“Imagine"を連想するのだが、がんらい僕たちはみな「世界」というひとつの場所における市民なのだ。それなのにじっさいは国籍だとか人種だとか宗教だとかジェンダーだとか、いろんなものにがんじがらめにされていて、一人ひとりの視点からみたこの世界は苦しみに満ちている。
個人的に、日本という国は凶悪犯罪がすくないわりには、人命を軽んじるような空気がただよっているのが気になる。台湾有事がどうのこうのと、スタートを切ったばかりでさっそく国民に不安をおよぼしている現政権のことはいうにおよばずだが、生活の拠点を九州から東京に移した僕が思うことは、電車の飛び込みだ。いわゆる人身事故は毎日のように起きている。そのたびに電車がとまって大勢の人が迷惑する。SNSで情報が拡散し、損害をこうむった人びとの不平や不満が飛び交う。死にたいんだったらひとりで死ね、人に迷惑をかけない方法を選べと、それはまさに正論だが、一方で僕は、人が死んでもそれがすぐに処理され、運転が再開するという当たり前の事実にちょっとおそろしいものを感じてしまう。
その人はわれわれの移動を邪魔してでも、自分が生きていた証をしめしたかったのではないかと想像してしまうからだ。それぞれいろんな事情があるだろうけど、おなじ社会の中で、そこまで追いつめられる人がいるというのをつきつけられると、なんだか重たい気持ちになる。匿名のだれかだった人が、一気に知人のだれかであるような錯覚をおぼえてしまう。物理的にはすべての駅にホームドアを設置すればいいのだろうけど、それはあまりにも費用がかかるし、第一、問題の本質はそこじゃない。命というものをどうとらえるかは僕たち一人ひとりの問題なのだ。毎日、東京都内を電車で移動する何千万人の人たちの利便性を考えたら、数人の命が失われることなどじつに些細なことでしかない。僕もまたそんな電車の利便性を享受して生きている。
ほんとうはもっと大きなこと、戦争や紛争で傷つき、死んでいく人たちのことを考えるべきなのかもしれないが、それはいまの僕の想像力のおよぶところではない。
“World Citizen” (written by Ryuichi Sakamoto and David Sylvian)There goes one baby’s life
It’s such a small amount
She’s un-American
I guess it doesn’t count
「世界市民」
ひとりの赤ん坊の命が消えていく
それはごく些細なことだ*
その女の子は非アメリカ人だが
それは問題ではないだろう
*「数」をあらわすnumberにたいして、amountは「量」をあらわすことばである。ここでは人間全体の命からすると一個の赤ん坊の命はsuch a small amountだということ。
Six thousand children’s lives
Were simply thrown away
Lost without medicine
Inside of thirty days
6000人の子どもたちの命が
ただうばわれてしまった
30日も経たないうちに*
薬もないまま失われてしまった
*inside of…「…以内に」(=within)
In the New York harbourWhere the stock’s withheld
It was the price we paid
For a safer world
ニューヨークの港*
そこで医薬品のストックは留めおかれている
それがより安全な世界をもとめて
僕たちの支払った代価だ
*the New York Harbourであれば「ニューヨーク港」を指す。なお、シルヴィアンは英国人なのでharborがharbourとつづられている。
World is sufferingWorld is suffering
World is suffering
World citizen
世界は苦しんでいる
世界は苦しんでいる
世界は苦しんでいる
世界市民
In Madhya PradeshWhere they’re building dams
They’re displacing native peoples
From their homes and lands
マディヤ・プラデーシュ*1
そこではダム建設が進められている
生まれ育った人びとは*2
自分たちの故郷や土地を追われている
*1 インド中部に位置する同国最大の州。州都はボーパール。
*2 peopleはそれじたいが「人びと」という複数をあらわす語なので通常は-sはつかない。ただし、「ある人びとの集団」、たとえば〇〇人と△△人という2つの民族からなるグループがあれば、それはtwo peoplesといえる。
So they hunger strikeCos they believe they count
To lose a single life
Is such a small amount
かれらはハンガーストライキに乗り出す
自分たちは大切であると信じているから
一個の命をなくすこと
それは些細なことでしかない
In the name of progressAnd democracy
The concepts represented in name only
進歩と民主主義の
名のもとに
ただ名目だけであらわされた概念
His world is sufferingHer world is suffering
Their world is suffering
World citizen
World citizen
World citizen
彼の世界は苦しんでいる
彼女の世界は苦しんでいる
かれらの世界は苦しんでいる
世界市民
世界市民
世界市民
And the buildings fallIn a cloud of dust
And we ask ourselves
How could they hate us?
そしてビルが倒壊する
塵の雲へと崩れていく
僕たちは自らに問いかける
僕たちを憎むなんてことがどうしてできる?
When we live inIgnorance and luxury
While our super powers practice
Puppet mastery
僕たちが無知と贅沢のうちに
暮らしているときに
僕たちのスーパーパワーが
傀儡による支配を実行するあいだに
We raise the menWho run the fascist states
And we sell them arms
So they maintain their place
僕たちはファシスト国家を運営する
男たちに荷担している
そしてかれらが地位を保てるように
かれらに武器を売っている
We turn our backsOn the things they done
Their human rights record
And the guns they run
僕たちはかれらがしたことに
背を向ける
かれらの人権に対する扱い
かれらの密輸する銃
His world is sufferingHer world is suffering
Their world is suffering
World citizen
彼の世界は苦しんでいる
彼女の世界は苦しんでいる
かれらの世界は苦しんでいる
世界市民
My world is sufferingYour world is suffering
Our world is suffering
World citizen
僕の世界は苦しんでいる
あなたの世界は苦しんでいる
僕たちの世界は苦しんでいる
世界市民
Who’ll do away with flags?Who’ll do us proud?
Remove the money from their pockets, scream dissent out loud
だれが国旗を廃止するのだろう?*1
だれが僕たちを歓待するのか?*2
かれらのポケットから金をとりのぞくんだ、声高に異議を叫ぶんだ
*1 do away with…「…を廃止する、無用となったものを捨てる」
*2 do O proud (略)「~を喜ばせる、誇りを感じさせる」
Cos God ain’t on our sideThe shoe won’t fit
And though they think the war is won
That’s not the last of it
神はわれわれの側にはついていないのだから
靴はどうしたって合わない
それにかれらは戦争に勝利したと考えていても
それで終わりということにはならない
Disenfranchised peopleNeed their voices heard
And if no one stops to listen
Lose their faith in words
市民権を剥奪された人々は
自分たちの声を聞き入れてもらうことを必要としている
もしだれも耳を傾けようとして立ちどまらないのなら
かれらはことばに対する信頼を失う
And violence risesWhen all hope is lost
Who’ll embrace the human spirit
And absolve the cost?
そしてあらゆる希望が失われたときに
暴力が台頭する
だれが人間精神を抱きとめ
損失を罪なしとすることができるのか?
Not one life is takenIn my name
In my name
ただひとつの命もうばわれない
僕の名においては
僕の名においては
His world is sufferingHer world is suffering
Their world is suffering
World citizen
彼の世界は苦しんでいる
彼女の世界は苦しんでいる
かれらの世界は苦しんでいる
世界市民
My world is sufferingYour world is suffering
Our world is suffering
World citizen
僕の世界は苦しんでいる
あなたの世界は苦しんでいる
僕たちの世界は苦しんでいる
世界市民








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