【歌詞対訳】”Ashes to Ashes” / David Bowie
14枚目のアルバム『スケアリー・モンスターズ』(Scary Monsters (and Super Creeps), 1980)からのリードシングル。個人的に、ボウイの一番好きな曲は中毒性満点のこれである。「スペース・オディティ」のトム少佐は、人類の期待を背負って宇宙に飛び出していったのち、薬物中毒者として天国の高みにいながら最低の状態に陥っているのであった笑。荒唐無稽としか思えない衝撃の展開だが、70年代をとおしてずっと薬物から手を離せなかったボウイ自身の苦境を反映したこの曲は、彼に「スペース・オディティ」以来となる、二度目の全英シングルナンバーワンをもたらすことになる。
さて、ジャンキーになりさがったことが判明したトム少佐だが、彼はその後1995年の「ハロー・スペースボーイ」("Hallo Spaceboy")において再び登場し、ボウイの遺作となった同名アルバムのタイトルトラック「ブラックスター」("Blackstar")のMV(2016)では亡骸とおもわれる姿が映し出される。ここでボウイは自己のペルソナのひとつであったトム少佐と完全に訣別を果たすこととなった。
宇宙ブームの時代にはジギー・スターダストを演じたり、ジョージ・オーウェルの『1984年』に感化されて『ダイヤモンドの犬』を作ったり(もっともこれはミューズの『ザ・レジスタンス』やレディオヘッドの「2+2=5」なんかにもいえることだが)、かとおもえば『ヤング・アメリカンズ』ではソウルに接近したり、ヒトラーやファシズムにかぶれたのか「ベルリン三部作」を作ったりと、デビューからたった10年ちょいのあいだでまあやることがころころ変わる。
普通のアーティストであればいったん成功を収めたらしばらくはその路線でやっていくものだが、ボウイはいわば普通ということの真逆に位置している存在だった。カメレオンのように変幻自在にすがたを変えながら、67年のデビュー以来ずっとロックスターでありつづけたのだ。つねに変化しつづけること、失敗をおそれずに挑戦しつづけることがいかに偉大なことなのか最初に僕に教えてくれたのはレディオヘッドだったが、いまはボウイをもうちょっとよく聞いてみたいという気分でいる。
“Ashes to Ashes" (written by David Bowie)Do you remember a guy that’s been
In such an early song?
I’ve heard a rumour from Ground Control
Oh, no, don’t say it’s true
「アッシズ・トゥ・アッシズ」
ずいぶん昔の歌に出てきた
男のことをおぼえているかい?
地上管制から聞いた話なんだがね
なんてこった、嘘だといってくれ
They got a message from the Action Man“I’m happy, hope you’re happy too
I’ve loved all I’ve needed to love
Sordid details following"
例のアクションマンからのメッセージを受信したそうだ*
「やあ俺は幸せだよ、君たちも幸せだといいな
愛すべきものはみんな愛したのさ
以下、零落の詳細を語るとしよう」
*アクションマンは、1964年にアメリカで発売されたG.I.ジョーがヒットしたことを受けて、1966年にイギリスのパリトイ社(Palitoy)から発売された男児向けアクションフィギュアのこと。G.I.ジョーのイギリス版である(参考:アクションマンの歴史)。そこから普通名詞のaction manとしてもちいられると「行動派の男、男らしい男」を意味する。
野中モモ『デヴィッド・ボウイ―変幻するカルトスター』(筑摩書房、2017年)を読むと、『スケアリー・モンスターズ(アンド・スーパークリープス)』というアルバムタイトルはボウイがケロッグ社のCMのキャッチフレーズから思いついたものらしく、この着眼点は「いかにも幼い男の子の父親らしい」とある(pp.146-147)。この男の子というのは映画監督のダンカン・ジョーンズ(1971-)のことだ。こういうエピソードがあるあたり、アクションマンへの言及があるのも無理はないかなと思う。
The shrieking of nothing is killingJust pictures of Jap girls in synthesis
And I ain’t got no money and I ain’t got no hair
But I’m hoping to kick, but the planet is glowing
虚無が叫んでるみたいなこの金切り声はたまらん
合成された日本人の女の子の写真はあっても*1
俺には金もなければ髪もない*2
やめようとは思ってるんだけどさ、地球はまばゆく輝いてるからね
*1 in synthesisは「合成された、統合された」を意味する表現だが、ボウイのビジュアルは歌舞伎の女形にも影響を受けているし、この曲じたいがギターシンセサイザー(guitar synthesizer)をフィーチャーしていたりといったことを連想させる。
*2 前のヴァースに出てくるアクションマンは、1970年に「リアリスティック・ヘア」と呼ばれる人間の毛髪に近い容貌をもったシリーズが発売された。トム少佐が宇宙へと飛び立ったのは69年発表の「スペース・オディティ」においてなので、したがって髪がないというふうにも解釈できるだろうか。
Ashes to ash and funk to funkyWe know Major Tom’s a junkie
Strung out in heaven’s high
Hitting an all-time low
灰は灰に、ファンクはファンキーに
われらがトム少佐はジャンキーなのだ
天国の高みでラリっておられる*1
史上最低の地点に到達だ*2
*1 strung out(俗)「麻薬の常用で衰弱して、ぼうっとして」
*2 “low”は前行の“high”と対照的に用いられているが、ボウイの1977年のアルバム『ロウ』(Low)への言及とみることも可能だろう。
Time and again, I tell myselfI’ll stay clean tonight
But the little green wheels are following me
Oh, no, not again
I’m stuck with a valuable friend
“I’m happy, hope you’re happy too"
One flash of light, but no smoking pistol
さんざん俺は自分にいい聞かせる
今夜こそはクリーンなままでいるぞ
でも緑の小さな輪に追いかけまわされるんだ
なんてこった、またなのか!
大切な友人と立ち往生してるよ
「俺は幸せだよ、君たちも幸せだといいな」
すると閃光が走る、でも煙を吹いている銃はどこにもない*
*smoking pistol(俗)「(犯罪の)決定的証拠」毎夜のごとく薬物をやめようと決心するトム少佐だが、確たる証拠はなくても彼がその誘惑に屈してしまったことは一連の幻覚から明らかである。
I’ve never done good thingsI’ve never done bad things
I never did anything out of the blue, whoa whoa
Want an axe to break the ice
Wanna come down right now
善きおこないなんかしたことがない
悪しきおこないなんかしたことがない
なにごとも出し抜けにはやったことがないのさ*1
氷を割る斧がほしい*2
いますぐに降りていきたい
*1 文字通りには“out of the blue”「突然、予告なしに」だろうが、“Space Oddity”に“Planet Earth is blue”という歌詞があるのを考えると「(青い惑星である)地球を出てからはなにもしていない」という意味にもなるだろう。
*2“ice”には俗語で「コカイン」(cocaine)の意味があるので、それを割りたいということは薬物から手を引きたいという意思のあらわれとも解釈できる。あるいは、みずからがおかれている「冷淡さ、冷たい雰囲気」から脱したいという意思とも(カタカナ語でアイスブレイクなどというときのアイスはこの意味である)。
Ashes to ashes, funk to funkyWe know Major Tom’s a junkie
Strung out in heaven’s high
Hitting an all-time low
灰は灰に、ファンクはファンキーに
われらがトム少佐はジャンキーなのだ
天国の高みでラリっておられる
史上最低の地点に到達だ
My mama said to get things doneYou’d better not mess with Major Tom
ママが言ってたっけな、物事をきちんとしなさい
トム少佐なんかに関わってはいけませんよと*
*このフレーズはナーサリー・ライム(マザーグース・ライムともいう)に則って書かれている。日本だと「童謡」とか「童歌」(わらべうた)。







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