【歌詞対訳】”Nouel” / Laura Marling

2025年10月3日

6枚目のアルバム『センパー・フェミナ』(Semper Femina, 2017)に収録。ラテン語のアルバム名を現代英語になおすと“always woman”といった意味になるだろう。これは古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』第4巻からの一節、おおまかに訳せば「女はつねに気まぐれでうつろいやすいもの」という部分からの借用。「女性」をテーマにしたコンセプトアルバムのなかで歌詞に“semper femina”というキーフレーズが含まれているのがこの曲である。

ローラ・マーリング(1990-)はイングランド出身のシンガーソングライターで、2008年にアルバム『アラス、アイ・キャンノット・スウィム』(Alas, I Cannot Swimでデビュー。バンドに在籍していた縁でノア・アンド・ザ・ホエールのチャーリー・フィンクがプロデューサーを務め、さらにマムフォード&サンズのフロントマン、マーカス・マムフォードも参加しているという、まったく無名の新人にしては破格のプロダクション。しかし作品はあくまで朴訥としていて飾り気がない。最新作『パターンズ・イン・リピート』(Patterns in Repeat, 2024)を含めて8枚のソロアルバム、ランプ(Tunngのマイク・リンジーとのデュオ)名義で2枚のアルバムをリリースしている。

ローラの音楽の最大の特徴は、そのエイジレスな声にあるというのが僕の意見である。さすがにいま初期の作品を聞いたら若々しさを感じるけれど、それでも年齢不相応といってもいいほど落ち着いていて大人っぽく、独特の憂いをおびた歌声はファーストの時点からすでに特別な存在感を主張している。そんな彼女の歌は作品を出すごとにより深みを増していくのだ。

でも正直、最初の5枚のアルバムに関してはもうちょっとなにか突き抜けたものがあるといいのになと感じていた。けっして悪くはないし、どのアルバムにもお気に入りが数曲ずつあるけれど、ちょっと地味すぎる。ジョニ・ミッチェルと何がちがうのかと聞かれてもうまく答えられないというか。それが、この『センパー・フェミナ』以降は変わってきた。パーソナルな側面が強くなるだけでなく、彼女自身がほんとうに表現したいことが歌にあらわれているような気がするのだ。

「ノウエル」という女性への思慕をあらわした歌であり(ノエル(Noel)ではない)、これはローラがロサンジェルスに住んでいた2013年頃にじっさいに知り合ったノウエルという女性がモデルになっているそうだが、どうも特定の女性というよりは「女性なるもの」の象徴のように思える(それに部分的には自分自身について歌っているのだとも)。いちばん最後に“My only guiding star”という表現がでてくるが、このノウエルこそは歌い手であるローラが慈愛とともに身をささげ、彼女自身をも導いていくミューズなのだろう。

“Nouel" (written by Laura Marling)

She sings along to sailor’s song

In a dress that she made

When she’s gone I sing along

But it doesn’t sound the same

「ノウエル」

彼女は自分で作ったドレスを着て

船乗りの歌にあわせて歌う

彼女がいないときは私が歌う

でも同じようには聞こえない

Oh Nouel, you sing so well

Sing only for me

Fickle and changeable

Though I may always be

ああノウエル、あなたは歌が上手だわ

私のためだけに歌ってよ

気まぐれで変わりやすい

私はいつだってそうかもしれないけど

I pulled a thorn from her tiny paw

Her feet were unclean

Fetch water, blessed twice

And hand a sponge to me

私は彼女のちいさな手からとげを抜いてあげた*

彼女の足は不潔だった

水をもってきて、二度祝福されたものよ

それからスポンジを私にちょうだい

*pawは「犬や猫などのかぎづめのある足」を表すことばであり、これを人に対して用いると「ごつい」(不器用な)手といった否定的なニュアンスが加わる。

I do well to serve Nouel

Whatever service I may be

Fickle and changeable

Weighing down on me

私はノウエルに尽くすのがいいだろう*

私にできそうな奉仕ならなんでも

気まぐれで変わりやすい

私に重くのしかかってくる

*do well to do「…するのがよい、賢明である」

She speaks a word and it gently turns

To perfect metaphor

She likes to say I only play

When I know what I’m playing for

彼女がひとつの言葉を発すると、それは徐々に

完璧な暗喩に変わる

あなたはただ戯れているだけだと彼女は好んでいう

なんのために戯れているか私にわかっているときに

Oh Nouel, you know me well

And I didn’t even show you the scar

Fickle and changeable

Semper femina

ああノウエル、私のことはよくわかってるでしょ

あなたに傷跡を見せもしなかったけど

気まぐれで変わりやすい

いつまでも女でいるセンパー・フェミナ

She’d like to be the kind of free

Woman still can’t be alone

How I wish I could hit the switch

That keeps you from getting gone

彼女は自由になりたがっている

女というものはいまだにひとりになれない

スイッチを押せたらいいのにとどれだけ願うことか

あなたが消えてしまわないようにするスイッチを

Oh Nouel, it hurts like hell

When you’re so afraid to die

Semper femina

So am I

ああノウエル、たまらなく胸が痛むのよ

あなたがそんなにも死ぬことを恐れていると

いつまでも女でいるセンパー・フェミナ

私だって同じ

She lays herself across the bed

The Origine du monde

Slight of shoulder, long and legged

Her hair a faded blonde

彼女はベッドに大の字に横たわる

世界の起源*

肩はほっそりしていて、脚が長い

彼女の髪は色あせたブロンド

*フランスの画家ギュスターヴ・クールベ(1819-77)による『世界の起源』(L’Origine du monde)への言及。裸で横たわる女性の性器に焦点をあてたスキャンダラスな作品。

Oh Nouel, you sit so well

A thousand artists’ muse

But you’ll be anything you choose

Fickle and changeable are you

And long may that continue

ああノウエル、あなたはきちんとポーズをとるのね

千人の芸術家たちのミューズ*

でもあなたは選べばなんにでもなれるのよ

気まぐれで変わりやすいあなた

どうかそれがいつまでも続きますように

*芸術家にとってインスピレーションの源となる女性、あるいは女性の姿であらわされる力のこと。

I do well to serve Nouel

My only guiding star

Semper femina

私はノウエルに尽くすのがいいだろう

私のたったひとつの導きの星

いつまでも女でいるセンパー・フェミナ