【歌詞対訳】”A Thousand Kisses Deep” / Leonard Cohen

2025年12月17日

10枚目のアルバム『テン・ニュー・ソングズ』(Ten New Songs, 2001)に収録。前作『ザ・フューチャー』(The Future, 1992)から9年ぶりとなる、10の新曲を収録したアルバムだからこのタイトル。シャロン・ロビンソンと組んだ非常に大人なサウンド。音楽的な深みに比してコーエンがアルバムのタイトルに選ぶ表現は、だいたいそっけないものばかりである。

英語表現として、たとえば辞書にも載っている"knee-deep"は「ひざの深さまで(に)」という意味になるので、"a thousand kisses deep"だと「千回ぶんのキスの深さ」ということで僕は解釈した。ここまで“Kiss Them for Me"“I Kissed a Girl"とキスをモチーフにした曲をつづけて訳したが、3曲目はこのくらいのスケールがふさわしい。

“deep"というと「深い(または名詞で深み)」という意味なので、とうぜん海や川といった水のイメージとむすびつく。このイメージがもっともストレートなかたちで表現されているのが"Confined to sex…"ではじまる海のヴァースだが、じっさいこの曲は冒頭の競馬のイメージ、恋人(または愛人)に不義理をはたらいて歌い手がもどってくる"Boogie Sreet"(Boogieは"boogie-woogie"(ブギウギ)のことである。ひとつの解釈としては、陽気で喧騒にみちた音楽業界とでも受け取っておけばいいだろうか)など、人によっていろいろなとらえかたができるものだと思う。個人的な印象としては、ロマンスに満ちたコーエン自身の生き方、それも多分に後悔の念が含まれた彼の人生そのものをあらわしているんじゃないかと感じる。

しかしながら、ほんらい詩(ボブ・ディランのそれとおなじく、コーエンの歌詞はあえて「詩」とよびたい)というものは、解釈するにあたってほんとうは1行1行立ち止まって徹底的に向き合わなくてはならないものであり、この曲の歌詞もそういう真剣さを注ぐだけの価値がじゅうぶんあると思う。じつはこの歌詞はコーエンがのちにBook of Longing(2006)という詩集におさめることになった同名の詩がベースになっており、2つ目のビデオではコーエンがそれを暗唱している様子がみられる(こちらのサイトで全体が読める)。もとになった詩からどのように手が加えられているか、『ライブ・イン・ロンドン』(Live in London, 2008)としてリリースされたこの公演で演奏をともなわず暗唱だったのはなぜか、そもそもなぜこの詩が選ばれたのかなど、調べるべきことは多い。今回は(というか毎回のことだが)訳をとっただけで力つきたので、また時間をかけて自分なりに向き合ってみたい。

“A Thousand Kisses Deep" (written by Leonard Cohen and Sharon Robinson)

The ponies run, the girls are young,

The odds are there to beat.

You win a while, and then it’s done –

Your little winning streak.

And summoned now to deal

With your invincible defeat,

You live your life as if it’s real,

A Thousand Kisses Deep.

「ア・サウザンド・キスィーズ・ディープ」

競走馬たちは駆ける、女の子たちは若い、*1

まだ逆転のチャンスはある*2

お前はひとときの勝利をおさめる、だがそれで終わりだ―

連勝はいつまでもつづかない

そしてお前は命じられた

自らの不屈の敗北に対処するようにと

それが本物であるかのようにお前は自分の人生を生きる

千回重ねたキスの深さ

*1 ponies(俗)「競争馬、ポロ用の馬」

*2 beat the odds(逆境に打ち勝つ、形勢を逆転する)をふまえた表現。

I’m turning tricks, I’m getting fixed,

I’m back on Boogie Street.

You lose your grip, and then you slip

Into the Masterpiece.

And maybe I had miles to drive,

And promises to keep:

You ditch it all to stay alive,

A Thousand Kisses Deep.

私は罪を犯しつづけて、どうにもこうにもならなくなり、*1

ブーギー・ストリートに戻ってきた*2

手の力が抜けて、お前はすべり落ちる

最高傑作マスターピースの中へと

おそらくまだ私にはあったというに、運転せねばならない何マイルもの道のりと

守らねばならない約束とが

お前は生きつづけるためにそれをみんな捨ててしまう、

千回重ねたキスの深さ

*1 turn tricks(俗)「罪を犯す、(売春婦が)体を売る」

*2 “Boogie Street”は同アルバムに収録されている楽曲のタイトルでもある。

And sometimes when the night is slow,

The wretched and the meek,

We gather up our hearts and go,

A Thousand Kisses Deep.

そしてときおり夜がゆっくりと更けていくようなとき

みじめな者といくじのない者である私たちは

ありったけの勇気をふりしぼって進んでいくのだ、

千回重ねたキスの深さを

Confined to sex, we pressed against

The limits of the sea:

I saw there were no oceans left

For scavengers like me.

I made it to the forward deck.

I blessed our remnant fleet –

And then consented to be wrecked,

A Thousand Kisses Deep.

セックスにはまりこみ、私たちは

海が尽きるところまで身体をおしつけた

私のような見下げはてた者たちには

残された海などないのだと知った

前甲板にたどりついた

私たちの残された艦隊を祝福した

それから岸に打ち上げられることに同意した

千回重ねたキスの深さ

I’m turning tricks, I’m getting fixed,

I’m back on Boogie Street.

I guess they won’t exchange the gifts

That you were meant to keep.

And quiet is the thought of you,

The file on you complete,

Except what we forgot to do,

A Thousand Kisses Deep.

私は罪を犯しつづけて、どうにもこうにもならなくなり、

ブーギー・ストリートに戻ってきた

かれらは贈り物を交換しないだろう

それはお前がもっておくべきものだったから

お前への想念は静かなもの

お前にかんする資料は完全なものだ

私たちがし忘れたことをのぞけばだが

千回重ねたキスの深さ

And sometimes when the night is slow,

The wretched and the meek,

We gather up our hearts and go,

A Thousand Kisses Deep.

そしてときおり夜がゆっくりと流れていくようなとき、

みじめな者といくじのない者である私たちは

ありったけの勇気をふりしぼって進んでいくのだ、

千回重ねたキスの深さを

The ponies run, the girls are young,

The odds are there to beat

You win a while, and then it’s done –

Your little winning streak.

And summoned now to deal

With your invincible defeat,

You live your life as if it’s real,

A Thousand Kisses Deep.

競走馬たちは駆ける、女の子たちは若い、

まだ逆転のチャンスはある

お前はひとときの勝利をおさめる、だがそれで終わりだ―

連勝はいつまでもつづかない

そしてお前は命じられた

自らの不屈の敗北に対処するようにと

それが本物であるかのようにお前は自分の人生を生きる

千回重ねたキスの深さ