TV On The Radioのオススメ曲紹介
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はじめに:TV on the Radioとは?
ゼロ年代のUSインディーシーンにおいて、もっとも傑出した存在だったといっても過言ではないバンド、TV・オン・ザ・レディオのおすすめ曲を紹介してみよう。2001年にニューヨーク・ブルックリンで結成されたインディーロックバンドだ。メンバーは下の画像のとおり。こんな怪しい人たち知らんよ……という声が聞こえてきそうだが、もしあなたがわりとコアなロックファンだったとして、ストロークス、ヤー・ヤー・ヤーズ、ヴァンパイア・ウィークエンドといった音楽になじみがあるのなら、TVOTR(TV on the Radioの略)を知らないのはもったいないなと思うので。

セカンドアルバム『Return to Cookie Mountain』(2006)のころ。
もちろん、知名度のうえでは、TVOTRは上にあげたようなバンドには劣っているだろう。『Is This It?』(2001)でストロークスは21世紀型のロックンロールを開拓したし、ヤー・ヤー・ヤーズには不滅のインディーソング「Maps」があるし、ヴァンパイア・ウィークエンドは『Contra』(2010)、『Modern Vampires of the City』(2013)、『Father of the Bride』(2019)の3作が連続して全米1位という快挙をなしとげた(音楽性はまるで異なるが、この事実だけをみると、かつてR.E.M.やザ・スミスが若者たちに熱烈に支持されたときの状況はこんな感じだったんだろうなと想像する)。
音楽関連の個人ブログを見ていると、自分は知らないけれど(というかほぼ誰も知らないだろうけど)「ああ、この人はこのミュージシャンのことが心底好きなんだな……」と思える熱い記事をみつけたりする。僕はけっこうそういうのが好きだ。大人になっても純粋な気持ちを失わずにいられるというのは素敵なことだと思うので。ただ、僕はどこまでも根が小心者なので、自分でそれをやろうとすると、どうしても主張の根拠がほしくなってしまう。たしかに自分はTVOTRの音楽を個人的に愛好しているが、なにをもって「ゼロ年代のUSインディーシーンにおいて、もっとも傑出した存在だった」とまで言い張るのか、と。
理由のひとつは『Return to Cookie Mountain』(2006)と『Dear Science』(2008)というエポックメイキングな作品を世に問うたこと。この時期のTV・オン・ザ・レディオは、音楽的な革新性という点では、レディオヘッドに匹敵するバンドだったと、自分としてはそう言い切ってもいいと考えている。一言でいえば、ジャンルの枠にとらわれない、なんでもありな音楽をつくってしまったのだ。ロック、ブルーズ、R&B、ソウル、ファンク、ヒップホップ、民族音楽、エレクトロニカ、フリージャズ、こういった思いつくかぎりのジャンルをすべてを吸収・再解釈してなお難解すぎないポップソングに仕立てるには、相当な音楽的知性が必要になる。ポピュラー音楽史においてそのようなことができたのはほんの一握りのソロミュージシャン、グループだけだが、TV・オン・ザ・レディオは確実にその中に含まれる。

ゼロ年代のUSインディーシーンを彩ったバンドたちには、それぞれにはっきりした個性が認められる。ストロークスはガレージロックをモダンかつ洗練された解釈で鳴らしてみせたし、ヤー・ヤー・ヤーズはパンクにアートロック的な感性を持ち込んだし……といった具合に。もうすこし泥臭いのが好きな層には、ホワイト・ストライプスやキングズ・オブ・レオンがいた。ロックともフォークともつかない、けれど単なるポップでもないみたいなエクスペリメンタル(実験的)なものが好きな層には、ダーティー・プロジェクターズやグリズリー・ベアがいた。
強引すぎることを承知のうえでまとめてみると、上にあげたようなバンドたちは、既存のジャンルを現代風に再解釈するその手際のよさ、センスのよさというところで大まかにくくることができそうな気がする。ようするに、どこかで聞いたことがあるような親しみやすさと、新しさが共存しているわけだ。これが、TV・オン・ザ・レディオになると「どこかで聞いたおぼえもないし、とっつきやすくもないけれど、新しい」という音楽のあり方を提示しているように思う。そして奇しくもというべきか、僕自身は、TV・オン・ザ・レディオを発見した2011年にはすでにその感覚じたいには身に覚えがあって、それがどこに由来していたかを考えると、90年代前半にイギリスでデビューしたレディオヘッドだったということだ。
なんだかもう語りつくされてしまった観があるレディオヘッドだが、『The Bends』(1995)から『OK Computer』(1997)を経て『Kid A』(2000)に至ったとき、ロックファンたちはやっぱり衝撃を受けたはずなんだよね。レディオヘッドを「ロック」だと思って聞いていた人たちは特に。最近、TikTokで「Let Down」がバズったりしたけど、曲がいいなと思った人にはぜひアルバムへと進んでもらいたい。できれば過去作からさかのぼって聞いてみると、僕の言わんとするところがわかると思う。King Gnuや米津玄師、藤井風なんか、僕が子どもの頃のJ-POPからしたらものすごく複雑な音楽だし、そういうのを聞いている若い世代のほうがむしろピンとくるんじゃないかな。そうしてこそ、TV・オン・ザ・レディオを受け入れる耳も鍛えられるというものだ。
TV・オン・ザ・レディオがゼロ年代USインディーシーンの象徴であると僕が考える理由のふたつ目は、デイヴ・シーテックというメンバーの存在である。彼はバンド内ではギターやプログラミングを主に担当しているが、一時代を築いた凄腕のプロデューサーというもうひとつの顔をもっている。TVOTRの作品はもちろんのこと、数多くのインディーミュージシャンたちの作品を手がけている(そのなかにはビーディー・アイの『BE』(2013)やウィーザーの『Weezer (Black Album)』(2019)、ビヨンセ・ジェイZ夫妻の「Love Happy」(2018)など大物アーティストの作品も含まれる)。『Dear Science』が出た2008年、シーテックはNME誌の「Future 50 list of the most forward thinking people in music today」においてナンバーワンに選出されたりもしたのだった。わかりやすくいえば、彼はいわばUSインディー界の小室哲哉なのだ。
たしかにTVOTR単体では、巨大な商業的成功も収めているレディオヘッドにはかなわないかもしれないが、広い目でみてTVOTRおよびシーテックがインディーズ中心に音楽シーンに対しておよぼしている影響力の巨大さを考えると、かれらはもっとアメリカ本国でも、そして日本でも知られていいと僕なんかは思うわけである。
お得意の超おおざっぱ要約をしてしまうと、レディオヘッドはロックバンドとして出発し、だんだん普通のロックに飽きてきて「ロックバンドにどれだけロック以外のことができるか」という刺激的な実験を繰り返したのちに停滞してしまった。それに対し、TV・オン・ザ・レディオはそもそもロック色のとぼしい音楽グループとして出発し、だんだんアイデアが枯渇してきたところで安易なロック路線に流れてしまい、停滞におちいったということになるだろう。
じっさい、TVOTRは近年、ライブを中心に活動を再開したが、『Seeds』(2014)のリリースを最後に新曲は発表されていない。しかしもっとも不可解なのは、バンドの創設メンバーであり、中心人物であるシーテックがライブツアーに参加していないということ。これはレディオヘッドにたとえたら、突如としてジョニー・グリーンウッド抜きでツアーが始まり、しかもいっさいの理由が明かされないという異常事態に相当する。シーテックが他のプロジェクトで忙しい説、単にやる気がなくなった説、病気説など、ネット上ではまことしやかに語られているが、真相は謎のままだ。
もはや新作を出すのはレディオヘッドが先か、はたまたTV・オン・ザ・レディオが先かというレベルで両者とも活動が鈍っているが、この状況で僕にできることはなんだろうと考えると、TV・オン・ザ・レディオを紹介することしかないと気づいた。レディオヘッドはすでに世界的に有名なので、新作を出せばどうせ飛ぶように売れるにきまっている。でもTV・オン・ザ・レディオみたいな才気あふれるグループが過去のものとして忘れられていくのは、かつてかれらの音楽に胸を熱くした自分としては、いささか切ないものがある。ということで、社会的影響力ゼロの僕がこんなことやっても仕方ないんだけど、どこのだれとも知れない一人にでも刺さればそれでいいやという態度でやっていく。
ここではいちおうアルバムリリース順におすすめ曲を紹介しているが、てっとり早くこのバンドの魅力にふれたい方は『Dear Science』(2008)の楽曲だけチェックするのでもいいと思う。自分はまず『Dear Science』にはまり、ついでその当時の最新作『Nine Types of Light』にはまり、さらに『Return to Cookie Mountain』『Desperate Youth, Blood Thirsty Babes』と過去作をたどり、最後に『Seeds』を聞いて終わったというクチだが、いちばんよく聞いたのはやっぱり『Dear Science』だと思う。
Desperate Youth, Blood Thirsty Babes (2004)
デビューアルバム『デスパレイト・ユース、ブラッド・サースティ・ベイブズ』(Desperate Youth, Blood Thirsty Babes, 2004)より「ステアリング・アット・ザ・サン」("Staring at the Sun")。初期の代表曲のひとつ。このころはデイヴ・シーテック、トゥンデ・アデビンペ、キップ・マローンの3人体制だった。シンセサイザーによる重低音に、サンプリングやギターを重ねて独特のレイヤーを形成し、そこにメロディやコーラスを乗せていくのが基本戦略。
「ドント・ラヴ・ユー」("Don’t Love You")。こういう醒めていてダウナーな感じはちょっとマッシヴ・アタックのそれを思わせるところがある。といっても、ヒップホップ要素は皆無なのでトリップ・ホップと呼ぶにはあたらない。エクスペリメンタル・ポップとしてとらえるのが個人的には妥当かなと思う。
Return to Cookie Mountain(2006)
セカンドアルバム『リターン・トゥ・クッキー・マウンテン』(Return to Cookie Mountain, 2006)より「ウルフ・ライク・ミー」("Wolf Like Me")。かれらがロックンロールをやるとどういうサウンドになるかを最初に示した例であり、まさにこの時代のUSインディーシーンを象徴する楽曲だと思う。この熱量はまさしくロックそのもの。しかしながら、ロックの花形楽器であるギターの使い方がやっぱり特殊で、リフも出てこなければフレーズらしきものも出てこない。ひたすらリズムを刻み、ノイズで空間を埋めるのみ。およそロックらしくないことをしているのに、ロックにしか聞こえないという不思議。
「プロヴィンス」("Province")。キップ・マローンによる美しいバラード。当時ほぼ引退状態にあったデヴィッド・ボウイがコーラスで参加している。「もう終わった」と思われていたボウイがその後、『The Next Day』(2013)で衝撃的なカムバックを果たしたのは記憶に新しい。バンドに興味を持ったボウイに、シーテックがいくつか曲のデモを渡したところ、この曲が彼のお眼鏡にかなったことで参加が実現したのだそうだ。ある種のロックファンには、「デヴィッド・ボウイが興味をもって入れ込んだバンド」という説明だけで事足りるような気がする。
Dear Science(2008)
サードアルバムにしてゼロ年代の名盤『ディアー・サイエンス』(Dear Science, 2008)より「ダンシング・チューズ」("Dancing Choose")。タイトルは"dancing shoes"のしゃれ。ラップを大胆にとりいれたダンサブルなナンバー。思いきりはっちゃけていて、ここにはマニア向け、玄人向けなTVOTRの姿はどこにもない。
こんなふうにヴァース部分のみラップ、サビは普通のポップスみたいな「なんちゃってヒップホップ」は本物のヒップホップ・ファンには敬遠されるだろうけど、思えばゼロ年代はジェイZとかカニエ・ウェストなんかが一気にこのジャンルをメジャー化させた時代だった。「なんちゃってヒップホップ」も受け入れられる素地ができていたわけだ。
「レッド・ドレス」("Red Dress")。キップ・マローンによるファンキーなナンバー。レノン=マッカートニーのたとえを使わせてもらうと、資質的にトゥンデ・アデビンペはポール・マッカートニー、キップ・マローンはジョン・レノンの方向性ではないかなと思う。耳に残るグッドメロディーは圧倒的にトゥンデが多いのだけど、「奇才」を感じるのはキップなので。
「DLZ」。ネットを見るといろんな説があるが、タイトルがなにを表しているのかはよくわからない(ちなみにこの系統の曲としては、次作『Nine Types of Light』に「Forgotten」という核の冬について歌ったものがある)。アグレッシヴなビートに乗せて、トゥンデ・アデビンペのソウルフルなボーカルが炸裂する。クラブとかでかけてもぜんぜん違和感がない感じ。
Nine Types of Light (2011)
4作目のアルバム『ナイン・タイプス・オブ・ライト』(Nine Types of Light, 2011)より「ウィル・ドゥー」("Will Do")。ミドルテンポのスウィートなナンバー。前作のジャケットがブルーであったのに対し、今作は対照的にレッドである。赤から連想されるものは愛、情熱、スペインということで、歌詞にはそれらの要素が色濃く反映されている。あまりに音楽的にとがっていながら完成度の高いポップソング集であった前作からすると、『Nine Types of Light』は実験性はやや薄れ、ミドルテンポでじっくり聞かせる系の曲が多い。そのなかでも個人的に一番いいと思えるのがこの曲。
「レペティション」("Repetition")。「繰り返し、反復」という意味。現代の消費社会のなかで堕落し、自己を見失った人間の告白を歌い上げる。不穏な雰囲気を保ちながらも、途中まではクラシカルなスタイルのロックンロールのように聞こえる。しかしそこはTVOTR、『OK Computer』のころのレディオヘッド並みに予想もつかない結末へと向かっていく。
Seeds(2014)
4枚目にして現時点での最新アルバム『シーズ』(Seeds, 2014)より「ケアフル・ユー」("Careful You")。トゥンデ・アデビンペのボーカルによるエレクトロ・ポップ。前作『Nine Types of Light』への参加を最後に、ベーシストのジェラード・スミスが肺がんのため36歳の若さで亡くなるという、バンドにとって悲痛な出来事があった。それを乗り越えて制作されたアルバムだが、この曲にも表現されているように、「痛み」や「喪失」がアルバム全体のテーマの一部を成している。
「ラヴ・ステインド」("Love Stained")。キップ・マローン作のアゲアゲなダンサブルなナンバー。『Dear Science』の「Red Dress」、『Nine Types of Light』の「New Cannonball Blues」のように、各アルバムに1曲はキップのハイライトといえる曲が収録されているが、『Seeds』の場合はこの曲で決まりだろう。時代的に、ちょっとEDMを意識したようなサウンドになっている。
ちなみに、『Seeds』は「Happy Idiot」(ポストパンク)、「Lazerray」(パンク)、「Winter」(ガレージロック)といった教科書的なまでにわかりやすいロックソングが収録されているので、インディーズになじみのない層にアピールする契機ともなった。ロックっぽいもののほうが好みという場合は、上記の曲をチェックしてもらえればいいかもしれない。





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