【歌詞対訳】”Mrs. Robinson” / Simon & Garfunkel

2026年1月31日

アルバム『ブックエンズ』(Bookends, 1968)に収録。サイモン&ガーファンクルを象徴する曲であると同時に時代を超えて愛される不朽の名曲であろう。67年の映画『卒業』(The Graduate)の主題歌としてもあまりに有名だが、フルバージョンが収録されているのは上記アルバム。

いまどきは検索ボックスに「Mrs.」と打ち込んだだけでGREEN APPLEと出てくる時代だが、あいにくここで僕が扱うのはかれらの曲ではない。先日は、十代くらいの少年たちが「スピッツのロビンソンだっけ? ロビンソンのスピッツ?」とかいってるのを耳にして、ひとりで吹き出しそうになった。そうか、君たちはもうそういう世代なんだな……となんだかしんみりしてしまった次第。気になっていちおう調べてみたが、「ロビンソン」そのものはこの曲とはなんの関係もなかった。

最近のJ-POPシーンを眺めていると、ミセスにせよ米津にせよYOASOBIにせよ、アニメとのタイアップという日本文化はほんと元気だよなあと感じる。タイアップ楽曲は作品の内容を知らないと歌詞の意味がつかめないというところで共通項があるのだが、それは『卒業』および"Mrs. Robinson"にもそっくりそのままあてはまる。まずタイトルからしてミセス・ロビンソンってだれなんだ?と。ある特定の世代からしたら『卒業』と"Mrs. Robinson"は頭のなかでがっちり紐づいており、切っても切りはなせるものではないはずだが、ゆとり世代の僕なんかからしたら、自分の意志で映画を観ようと、曲を聞こうとしなければ、このふたつは結びつかない。勉強が必要なのである。

歴史のある曲なのでネット上にはさまざまな考察があふれかえっているが、ひとまず訳をとるにあたっては"Mrs. Robinson"をどう訳すかが大きなポイントになってくる。これがもし情報量の多い散文であれば、直訳して「ロビンソン夫人」、あるいは単に「ロビンソンさん」などとするのが自然だろう。だが個人的には、幾度も呼びかけられる"Mrs. Robinson"は「ミセス・ロビンソン」であって、それ以外には置き換えられないと考える。

というのは、くりかえし出てくる"Woah, woah, woah"や"Hey, hey, hey"がそれらとして成り立つのはあくまでその「音」であるからであって、ある意味では"Mrs. Robinson"もそのような意味の空疎な記号なんじゃないかと感じられるからである。映画のなかでも彼女は個人の特定に結びつくファーストネームを有していないというのはけっして見逃せない事実だ。たしかにファーストネームが不明なのはなにも彼女に限ったことではないが、作中での役どころを考えると、彼女が一貫して「ミセス・ロビンソン」としか言及されないのはあきらかになにかを意図している。彼女は表向きにはミスター・ロビンソンの「妻」であり、エレーンの「母」であると、そういった関係性をあらわす語によってしか存在していないのだ(彼女に裏の顔があることはここであえていうまでもない)。

以前から、最後のコーラスに出てくるジョー・ディマジオがまたあまりに唐突というか、彼である必然性がどこにあるのかと疑問に思っていたのだが、考えてみればディマジオも特定の個人である以上に、歌のなかでは「ヒーローの喪失」を象徴する単なる記号としての印象が強い(その証拠にというべきか、ポール・サイモンのお気に入りはミッキー・マントル(Mickey Mantle, 1931-95)だったらしいが、音符にあてはめるためにディマジオが選ばれたということらしい笑)。記号だらけの歌なのである。あくまで音が形式であり、同時にその本質である記号としてとらえるならば、日本語においては「ミセス・ロビンソン」とする以外に手はない。

“Mrs. Robinson" (written by Paul Simon)

And here’s to you, Mrs. Robinson

Jesus loves you more than you will know

Woah, woah, woah

God bless you please, Mrs. Robinson

Heaven holds a place for those who pray

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

「ミセス・ロビンソン」

あなたのために乾杯、ミセス・ロビンソン

ご自分で思うよりずっとあなたはイエスに愛されていますよ

Woah, woah, woah

どうかあなたに神のお恵みを、ミセス・ロビンソン

天国には祈る者たちのための場所がとってありますから

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

We’d like to know a little bit about you for our files

We’d like to help you learn to help yourself

Look around you, all you see are sympathetic eyes

Stroll around the grounds until you feel at home

書類のためにわれわれはすこしあなたのことを知りたいのですが

手助けをしたいのです、あなたがご自分を大切になさるように

まわりを見わたしてごらんなさい、どこもかしこも同情にみちた眼ばかりだ

構内をぶらつくといいですよ、気持ちがほっと落ち着くまで

And here’s to you, Mrs. Robinson

Jesus loves you more than you will know

Woah, woah, woah

God bless you please, Mrs. Robinson

Heaven holds a place for those who pray

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

あなたに乾杯、ミセス・ロビンソン

ご自分で思うよりずっとあなたはイエスに愛されていますよ

Woah, woah, woah

どうかあなたに神のお恵みを、ミセス・ロビンソン

天国には祈る者たちのための場所がとってありますから

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

Hide it in a hiding place where no one ever goes

Put it in your pantry with your cupcakes

It’s a little secret, just the Robinsons’ affair

Most of all, you’ve got to hide it from the kids

けっしてだれも立ち入らない隠し場所に隠してください

カップケーキといっしょに食料貯蔵室にいれてください

ちょっとした秘密ですよ、ロビンソン家の情事です

なによりもまず、お子さんたちには見つからないように

Coo, coo, ca-choo, Mrs. Robinson

Jesus loves you more than you will know

Woah, woah, woah

God bless you please, Mrs. Robinson

Heaven holds a place for those who pray

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

Coo, coo, ca-choo、ミセス・ロビンソン*

ご自分で思うよりずっとあなたはイエスに愛されていますよ

Woah, woah, woah

どうかあなたに神のお恵みを、ミセス・ロビンソン

天国には祈る者たちのための場所がとってありますから

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

*ビートルズの“I am the Walrus”に出てくるGoo-goo-g’joobへのオマージュ。

Sitting on a sofa on a Sunday afternoon

Going to the candidates debate

Laugh about it, shout about it

When you’ve got to choose

Every way you look at it, you lose

日曜日の午後ソファに腰をおろす

候補者たちの討論会に出かける

選ばなくてはいけないそのときに

それを笑う、それを叫ぶ

どうみたって、あなたは敗れるしかない

Where have you gone, Joe DiMaggio?

A nation turns its lonely eyes to you

Woo, woo, woo

What’s that you say, Mrs. Robinson?

Joltin’ Joe has left and gone away

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

あなたはどこに行ってしまったんだ、ジョー・ディマジオ?

国民たちはさびしげな眼をあなたに向けている

Woo, woo, woo

なんですって、ミセス・ロビンソン?

ジョルティン・ジョーは去り、姿を消してしまったんですよ*

Hey, hey, hey

Hey, hey, hey

*ニューヨーク・ヤンキースで活躍したプロ野球選手ジョー・ディマジオ(Joe DiMaggio, 1914-99)のニックネーム。