【歌詞対訳】”Humiliation” / The National
6枚目のアルバム『トラブル・ウィル・ファインド・ミー』(Trouble Will Find Me, 2013)に収録。このアルバムがリリースされたのは僕が大学生の頃だった。リアルタイムでこんなすごいものを聴けたのはほんとうに幸福だったと感じている。ライブ映えするのは「シー・オブ・ラヴ」、「ドント・スワロー・ザ・キャップ」あたりだろうけど、「アイ・ニード・マイ・ガール」、「ピンク・ラビッツ」といったバラードも捨てがたい。そしてこの何と形容していいのかすらわからない「ヒュミリエーション」はアルバムを聞き始めた最初の段階から僕を引きつけていたのだけど、その謎めいて詩的な世界のニュアンスをつかむのにはじつに長い時間がかかってしまった。ローマ公演(その模様はライブアルバム『ローム』(Rome, 2024)に収められている)でこの曲が披露されたのは一種のファンサービスでもあるだろう(歌詞にヴェネツィアが出てくる)。もう10年以上も愛聴している曲がライブで新しい生命をほとばしらせているのにふれて、ようやくちゃんと訳出する気になった。
“Humiliation" (written by Aaron Dessner, Bryce Dessner and Matt Berninger)I survived the dinner,
Then the air went thinner
I retire to the briars by the pool
It gets so loud
「ヒュミリエーション(恥辱)」
なんとかディナーを生き延びた
それから空気がさらに薄くなった
プールのそばのイバラの茂みに身を隠す
あたりはとても騒がしくなる
If I die this instant,Taken from a distance,
They will probably list it down
Among other things around town.
もし僕がこの瞬間に死んだら
遠くから撃たれて死んだら*1
彼らはそれをリストに入れるのだろう
町じゅうの他のあれこれといっしょに*2
*1 be takenはbe killedの婉曲表現としても用いられる。
*2 among other things「他の人(物)といっしょに、とりわけ」
Got my rings around meI got baby to pound me
I see stars and go weak.
My baby cries and lays me down
僕には仲間たちがいる
僕をガンガンたたく赤ん坊がいる
星が見える 弱り果てる
僕の赤ん坊は泣いて僕を打ちのめす
In the skies over black Venice,I see eyes of a white menace.
The surprise of the week
Is that I never heard the sound.
黒いヴェニスのうえに広がる空のなかに
白い脅威の眼がまざまざと見える
今週の驚きは
音がまったく聞こえなかったことだ
All the LA womenFall asleep while swimming
I got paid to fish them out
And then one day I lost the job
すべてのロサンジェルスの女たちは
泳ぎながら眠りに落ちる
女たちを引き上げるために支払いを受け
そしてある日僕は職を失った
And I cried a littleI got fried a little
Then she laid her eyes on mine
And she said, “Babe, we’re better off."
ちょっと涙が出た
ちょっとだけぼうっとしてしまった
そして彼女は僕の眼を見つめて
言った、「あなた、私たちは恵まれているのよ」
I got my rings around meI got baby to pound me
I see stars and go weak
My baby cries and lays me down
僕には仲間たちがいる
僕をガンガンたたく赤ん坊がいる
星が見える 弱り果てる
僕の赤ん坊は泣いて僕を打ちのめす
In the skies over black Venice,I see eyes of a white menace.
The surprise of the week
Is that I never heard the sound.
黒いヴェニスのうえに広がる空のなかに
白い脅威の眼がまざまざと見える
今週の驚きは
音がまったく聞こえなかったことだ
Tunnelvision lights my way.Leave my little life today.
視野狭窄が僕の道を照らす
今日このささやかな人生を去っていく
As the freefall advances,I’m the moron who dances
I was teething on roses
I was in guns and noses
自由落下が進行するにつれて
僕はただ踊るだけの阿呆になる
薔薇のうえで歯が生えだしていた
ガンズ&ノーゼズ(銃と鼻)の一員だった*
*Guns & Rosesのしゃれ。前行にrosesとある。
Under the withering white skies of humiliation.Under the withering white skies of humiliation.
気力を奪う恥辱に満ちた白い空のしたで
気力を奪う恥辱に満ちた白い空のしたで
Tunnelvision lights my wayLeave my little life today
Tunnelvision lights my way
Leave my little life today
視野狭窄が僕の道を照らす
今日このささやかな人生を去っていく
視野狭窄が僕の道を照らす
今日このささやかな人生を去っていく
She wore blue velvetSaid she can’t help it
She wore blue velvet
Said she can’t help it
She wore blue velvet
Said she can’t help it
彼女はブルー・ヴェルベットを身にまとった*
彼女は言った、どうすることもできないと
彼女はブルー・ヴェルベットを身にまとった
彼女は言った、どうすることもできないと
彼女はブルー・ヴェルベットを身にまとった
彼女は言った、どうすることもできないと
*デヴィッド・リンチの映画『ブルー・ヴェルヴェット』(Blue Velvet, 1986)への言及か。同作で重要なモチーフとなっているロイ・オービソンの「イン・ドリームズ」("In Dreams")は夢のなかでは君といっしょにいられるけれど、夜明け前に目を覚ますと君は消えてしまっていて、僕にはどうしようもない("I can’t help it")と歌われる。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません